kurayami.

暗黒という闇の淵から

ビリビリにして枕の下へ

 息を止めれば、死んでしまう。
 誰かが、みんなが、言っている。息をしろ生きろって。僕の死んでしまいたい気持ちを殺害してまで、優しい声で脅迫する。だから僕は生きている。そのために嫌いな朝だって何度だって迎えてみせるし、心をズタボロに刺されても歩いている。なのに、誰かやみんなは、僕に存在が迷惑だから死ねと言うんだ。生きろだの、死ねだの。理不尽だ。
 おかげで生きている気がしない。かといって身体は脈を打っていて、瞬きをしなければ目は乾燥して萎んでいく。死という哀の印象すら無い。
 ゾンビ。いやゾンビだったら良かったのに。もしゾンビだったなら、みんなから愛されて、真夜中のビデオデッキを前にして毛布にくるまった恋人たちにずっと見てもらえる。疲れもしないし、仲間も作れる。だけどそうじゃない、僕はもっと特別で愛されない、エラーで発信されなかったツイートのような何かだ。
「好きだけど、向こうは僕のことを嫌いだから」
 そんな理由で見送った恋があって、失恋は埃のように固まって、僕の癌として内側に存在している。ああ、欲しかった。支配して僕だけの貴女にしたかった。そんな僕だけの恋人も友人も欲しかったけど、そう願うことすら罪で、人に知られたら住む場所を奪われるような罰を受けてしまう。
 僕の中で朧げになっている恋の中で、一人だけ鮮明に覚えている人がいる。いつも周りに優しい笑顔を振りまいていて、それは僕にも。しかし、僕に向ける表情だけ特別に違う。語りかけるような優しい笑顔には「貴方はこれ以上近づかないでください」というメッセージが、密かに内包されていたのを僕は知っていた。人の皮を被った美しい悪魔。そんなあの子の歪んだ表情の記憶が、僕にとって数少ない幸福で、地べたの名もないゴミという証明だった。
 叶えたい恋があっただなんて、僕は口が裂けても言えない。誰かと笑いあいたいだなんてことも。欲望も全部全部、誰かやみんなが許してくれないから、寝る前にビリビリに破いてベッドの下に入れるだけ。
 へらへら笑って、人の記憶に残らないようにするのが背一杯。
 でも、これだけ周りから脅迫され続けても、結局正しい生き方はわかっていないんだ。その内、全世界全ての脅迫を受け入れるだけの肉塊になるんじゃないかって、びくびく怯えながら暮らしている。
 だけどもし、そんな恐怖を代償に何かなんでも貰えるとしたなら、僕はちっぽけでも良いから欲しいものがあるよ。
 息が止まるほど、ちっぽけな愛。
 僕はただ、愛されたいだけだから。

 

 

 


nina_three_word.

〈 偏執病 〉