kurayami.

暗黒という闇の淵から

当たり前の日常

 ぐるりと辺りを見渡せば、クラスメイトたちが授業を受けている。
 あれ、ずっとそこにいたっけ……なんて疑問を不思議に思って、きょろきょろしていたら、先生に集中しなさいって注意された。でも、どうしてだろう。僕を含め、クラスメイトも、先生も、そこに存在していてはいけない気がしたんだけど。
 でも、存在していることは、多分悪いことじゃない。
 それなら、僕の中に湧き出た〈存在してはいけない理由〉はなんだろう。
 そんな漠然とした疑問を午前も午後もずるずると引きずった。昼食のときなんかは友人と話すのに夢中になって忘れていたけど、ふと訪れる〈何も無い時間〉に考えてしまう。存在して良い理由を逆に考えられない。なんで、僕らは存在しちゃいけない、だなんて考えたんだろう、
 もしかして、気付いたこと自体、間違いなのか。
 僕らではなく、僕。
 知らなければいい、ということ。知らずに暮らしていれば問題ない、ということ。しかし気付いてしまったからには、かの二人の教祖のように、僕は悟りを開かないといけないのでは。そうやって箒を片手にぼーっと考えていたら、班長の女子に怒られてしまった。ああ、女子は呑気で良いよな。放課後に食べる生クリームのことだけ、考えていればいいんだから。羨ましいよ。
 掃除をするフリを終えた僕は、放課後になって友人と下校して、回り道をして、一人になった。〈何も無い時間〉だ。見慣れた帰り道、緑がトンネルを作る坂道を登っていく。向こう側には夕方のオレンジの一色が出口になって見えていた。
 緑のトンネルの中を潜っていく。ぐるりぐるりと、思考が移り代わっていく。代わる代わる思考に答えを求めていく中で、僕は意外と、何も知らないことに気付いてしまう。
 いや、本当に、何も知らない。
 僕を造った二人を。僕を孤独にしない友人を。僕という個人を。
 十何年も、知らないモノに囲まれて、知らないナニかでいたことに、僕は呆然として悪寒に襲われる。なんで今まで、気付かなかったんだ。
 坂道を登りきったとき景色の半分が住宅街に囲まれた。僕が生まれ育った街。当たり前のように存在するこの、街。街灯も電線も、当たり前のように存在する。
 そのとき、ぐるりと〈当たり前の日常〉に囲まれて、やっとわかった気がした。
 僕は、長い長い、始まりの見えない文明の上に存在しているだけじゃないか。
 文明も文化も、まるで〈ダレか〉が組み立てたように〈当たり前の日常〉になっている。その〈ダレか〉が世界を用意したとでも言わないと、僕が何も知らないことを、証明出来ない。
 僕は誰かに用意された……
 ふと、突然一人になってしまった気がした。気付けば赤い街角には人の気配がない。遠くでやけに響くカッコウの鳴き声が、静かなで孤独な空を象徴し、僕の不安を掻き立てる。

 どうかその鳴き声だけは、カッコウのモノでありますように。

 

 

 

nina_three_word.

〈 文明 〉
〈 ぐるり 〉
カッコウ