kurayami.

暗黒という闇の淵から

夕闇の中

 私は神様で無ければ、人でも無い。こうして少女の形をしているのは世の都合あってのことで、しかしそんな都合に踊らされていても、生きとし死ねる君らよりは上位の存在なんだよ。私は切り取られた夕焼けの時間の中に佇む、無彩色のアヤカシに創られた名前の無い概念でしかないけれど。
 故に長いこと、此処から世界を見てきたの。きっと、この先も定かではない〈全ての終わり〉も見届けることになる。もちろん、君のことも。
 ねえ、ところで君は、生きることには疑問を感じないのかな。
 命の創造と終焉を、繰り返し見てきた私からしたら、必死に前進する君らがとても愚かに思えるの。誰しもが非真実で虚構な〈生きる理由〉を前にぶらさげ、先にナニカがあると信じて闇雲に前進する。何も無いのに。
 だけど、生きようとすること自体はとても、偉いよ。特に真実の内側で見えない何かと戦い、文明を、文化を築きあげる君ら人は、とても。私には出来ないことだから、尊敬の念すら芽生える。
 愚かで偉くて、つまり、生きている君らはとても可哀想だと思うんだ、私。
 だってわざわざ始を与えられておきながら、終を強制されている。〈生きている〉は〈死のうとしている〉ことに同じだよ。長い長い自殺の延長戦にいるわけで、だけど自殺することから避けている。死を恐れているけど、有終の美を望んでいる。死を強制されたからと言って諦めて、恐れて、せめて良いものにしようと努力する。愚かで偉い、けど、可哀想だね。
 死んだら遺品が残るね。そして遺品が消えても記憶が残る。でも、そのモノの記憶を持つ全ての人が死んでしまえば、いよいよ何も残らない。「死んでしまえば何も残らない」から。長い歴史の中の文字になるだけ。魂は暗闇に幕を閉じて、肉体は世界とさよならする。
 魂を死後に変質させて、世の鑑賞者になれるモノも限られているし、理不尽な仕組みだよね。どうかな、君は私の話を聞いて、どう思ったかな。いたずらに、虚無を与えてしまったかな。
 ねえ、頑張らないで、死んじゃっても良いと思うよ。
 永遠なんて幻想で、死後誇れるなんてものは朽ちていく。それならこの先、必要以上に苦しむようなら、世界からさよならして離れても良いんだよ。
 まあでも、それが出来ないから、死が怖いから、意味を見出そうとしているんだもんね。私には縁の無い話だけど、難しい課題。
 あ、向こうの世界で鐘が鳴っているよ。もうこんな時間、君はそろそろ帰らないといけないのかな。私と君はもう、会うことはないと思うけれど、どうか理不尽な運命の元で私の言葉を思い出して、生と死の中でもがいて見せてね。
 私はずっと、この夕焼けの時間から、君が死ぬまで見ているから。

 

 

 

 

 

 

 
nina_three_word.

〈 生きとし生きるもの 〉への言葉。