kurayami.

暗黒という闇の淵から

十月末のコスモス

 私が変わらなければ良い、それだけのこと。
 それだけのこと。
 ただの、女子高生の一恋愛に過ぎない。一年と少しの片想いの間、私は心の底から手を伸ばして、彼を求め続けた。恋人という形になった今だって、気持ちは変わらない。大好きで大好きで、一回だって想うことをやめたことがないぐらいだ。
 私の真心である〈大切で愛おしい想い〉を、彼は知らない。
 彼に対して、ずっと〈それなりに好きなフリ〉をしている。
 だって恥ずかしい。そんな沈んだ重たい想い、知られてしまえばきっと私は彼の顔を、まともに見ることもできない。いつだってツンケンして、彼の会話に興味を示さないフリをしている。彼からしてみれば、いまのわたしは恋愛慣れしてない初心な女子高生でしかないんだから、可愛くない。
 けれど、隠すようなフリをしていたのは、正解だったようで。
 いつからだろう。夏休みを終えてから、暑さが失われてから、最後の文化祭を終えてからかな。なんとなく気付き始めていて、完全に自覚したのは……してしまったのは、十月の末の頃だった。
 彼には今、私以外に好きな人がいる。
 いや、今も。
 誰かがそう言っていたわけじゃないし、彼に好きな人がいたって聞いたこともない。確証なんて何処にもない。それでも、わかる。私に対して向ける〈それなりに好きなフリ〉が、フリではないこと。本当にそれなりでしかなくて、意識は何処か別の一点を見つめていること。
 一緒にいるとき、なにか特定の景色を見たときの、彼の表情。思い出すように思考を止めて、切なそうで狂おしそうな表情を隠している。私に見せたことのない表情。綺麗に広がる花の群生を見たときが、一番多い。
 対して私には、まるで安心したような表情を向ける。悪夢から覚めた朝のように安堵して、それでいて現在を必死に肯定しようとする。私という恋人を見ている。
 ねえ、誰を見てるの。
 誰でも、いいけれど。
 気にならないと言えば嘘になる。好きな人の好きな人なんだから、その人のようになりたいと思う。でも、だからと言って、私の〈大切で愛おしい想い〉は絶対に変わらない。
 そう、変わらないまま、このままで良い。
 彼にとって私が朝のような存在でいられるなら嬉しい。変わらないことで怯える彼と救いたい私、二人の調和になるのだったら本望だ。
 ただ、ゆめゆめ、忘れてはいけない。
 私の恋がまだ、成就していないことを。私は彼に愛して欲しいこと、私だけを見て欲しいことを。
 一緒にいられるその先、彼をモノにできる、その日まで。


 

 

 

nina_three_word.

〈 コスモス 〉

〈 ゆめゆめ 〉