kurayami.

暗黒という闇の淵から

精神と海岸の物語

 重たい曇り空の下、人気のない海岸沿い、船屋前。鋭い岩肌に黒い波が当たって、ばらばらになって砕けた。
 僕ら少年少女七人をここまで連れて来たのは、深い紅色のローブで顔を隠したお兄さん。
 ローブのお兄さんは、船屋のおじさんに話している。
「船を借りたいんだ。大きなモノと、小さなモノで」
 時々目を開けられないような突風が吹いて、僕らの顔を痛めつけた。
「それはいいが、お前さん〈精神感者〉だろ。となると目的地は……」
「ああ、星都になる。しかし、行き先はポルックス近くで構わない」
 ローブが風に揺れて、お兄さんの無表情な顔が覗く。真っ黒な瞳、藍色の睫毛が僕とお揃いだった。
ポルックス近くか、まあ、それならそう高くはないだろう。船は大きいのと小さいのと言ったが、何人と何人で乗るつもりなんだい」
 おじさんが、お兄さんの後ろで纏まっている僕らの様子をチラッと見る。
「七人と一人。その大きさの船で頼む」
「お前さんと、子供たちか」
「いや、俺と六人と、もう一人だな」
 お兄さんの言葉に、僕は疑問を持った。誰かが、一人になる。誰だろう。
「まさか」
「そうか、間違えた。小さな船の方は買い取りで頼む。出来るか?」
 ローブの中から、何かが入った麻袋をお兄さんが出した。
「買い取りは、出来るが……一体なぜ」
「一人だけ〈アパシー〉がいる。それも重度の。今は擬似精神で抑え込んでるが、崩壊も時間の問題だろう」
 お兄さんの真っ黒な瞳が、僕を横目に見て、そう語った。
「しかしそれは、お前さんも。もしかしたらお前さんのように」
「いい。もうあの精神能力値じゃ、この世界は生きれない。それに、俺も……」
 おじさんの言葉を遮ったお兄さんの言葉は、最後まで発せられない。
 どうやら僕だけ、別の場所に行かなきゃいけないらしい。こちらを振りむくことのないみんなと別の船に乗って、遠く果てに流された今、それは変わらない事実。
「僕という擬似精神の役目は、そろそろ終わりが見えてきた」
 聞こえた声は、僕に埋め込まれた、僕ではないモノ。
「悲しいと思う? でも見てごらんよ。今こうして、やっと僕らは自由になったんだ」
 悲しいとは、嬉しいとは思えない。
 けれど、自由という言葉は何処か、魅力的だった。
 陸は遠くに線となって見えて、面となる灰色の空は波を風を荒らしている。
「もちろん僕は、この灯火が消えるまでは生を全うするつもりだけど」
 好きにすればいい。
 船は海の淵を目指すように、一人でに流されていく。

 遥か彼方の神話。アパシーとステータスの世界から外れ、数多の物語の海に存在する、赤目の少女とすれ違う、その先まで。

 

 

 

 

 

nina_three_word.

〈 ステータス 〉
アパシー
〈 チャーター 〉