可愛いことは、正しい。
まだ幼かった頃、母が私に言った言葉。きっと、女の子らしくなって欲しかったんだと思う。そんなこと言われなくても、私は可愛いモノは大好きだった。正しいと思っていた。
だって、可愛いは素敵だから。
夢見のパステルカラー。ふわふわパンケーキ。貴方を射抜くセーラ服。全部全部可愛くて、素敵に溢れていて、ゆるく身体が軽くなって心が満ちて重くなる。幸福。深く考える必要もなくて、何処にでもあって、息を吸うように摂取出来る。
可愛いことは、とても正しい。
そう信じて、私はずっと唱え続けてきた。ペットのアイ君に、学校の友達に、小さなネットコミュニティで。可愛いことを歌うように、流すように唱え続けていたら、いつしか「私の可愛い」は誰かの心を射抜いていた。
可愛いことは、救い。
小さなネットコミュ二ティの中で、私の言葉を心から信じる人が増えてきた。可愛いことが正しいだなんて、当然のことなんだから、それはそうなんだけど。信じる人たちはまるで、縋るようで、可哀想で可愛い。もし可愛いで救われるのなら、もっと可愛いことを信じた方がいい。
可哀想だということは、可愛いこと。
私が発したその言葉に、信じて縋る人たちは涙を流したという。悲観は決して不幸ではないって考え方に、私は少しだけ悲しくなった。ならせめて、自身が可愛いと思うことで救われて欲しい。
可哀想は可愛くて、素敵で正しいこと。
不幸は可愛い。正しくて素敵。可愛いは救い。
惨めなほどに、可愛いと愛されて、幸福を得る。
可愛いことは正しい。
私の思想は意味を変えないまま、酷く歪んで、ネットを媒介に広がっていく。プログラムされた宗教みたいに、そうでしか縋れないと信じて。「可愛いことは正しい」を合言葉に、ロボットのように自ら不幸へと進んでいく、とっても可哀想な信者たち。
ああ、可愛い。
見ててドキドキする蒼白の顔。誰の愛情も無いコンビニ弁当。垂れ流される痛みの流血。
私の放った思想は今もなお救いとして、人から人へと感染し続けている。いつまでも不幸な人がいる証拠。そういえば、最初の頃に私を崇拝していたネットコミュニティの人たちがこの前、集団練炭自殺をしたらしい。
あの人たちが、不幸の果てに見つけた終わりの可愛さ。
どんなものなのかな。私には到底真似出来ないから、わかるはずないけれど。
私はただ、可愛いものを愛で続けるだけ。
そしてどうか、世界のみんなが、可愛くて幸せになれますように。
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〈 ミーム 〉