夜になった十月の公園は、制服のスカートにはとても厳しくて、家に帰ったときに着替えれば良かったと酷く後悔した。でも寒いのがわかっていたからと言って、きっと私は帰ったときに冷静に着替えたりすることは出来なかったと思う。
告白はいつだって、余裕がないのだから。
ベンチに座って備え付けられた背の高い時計を見る。時刻は午後五時四十五分、約束の時間まであと十五分だ。いつ来るんだろう。そもそも来てくれるのかな。ほんの少しだけ、心配になる。
うつむいた私の視界に、肌寒そうな二本の足が目に入った。
「来たよ」
懐かしい声に顔を上げれば、待ち望んだ顔。早すぎるマフラーを首に巻いて、私の質素なブレザーとは違う可愛いセーラー服を身に纏っている。
「はやい、ね」
「たまたまだよ」
私の上ずった声に、彼女はぶっきらぼうな声で返した。ああ何年ぶりだろう。でも随分と久しぶりなはずなのに、そんな気はしない。あの頃の声や顔。憧れ。そんな彼女の存在は、私の中にずっといた。ずっとずっと、勝手に。
「そっか、そうだよね。中学の卒業以来だよね」
だから今日、伝えなきゃ。
「だね、久しぶり。……突然呼び出してどうしたの。話ってなに」
そう言って彼女は、自然な動作で横へと座った。甘い薔薇のような香りが漂って、言うべき言葉が喉に詰まってしまう。時間が止まったみたいに間が空いてしまう。でも、
「えっと、あのね」
ずっと勝手に憧れていたから、
「うん」
言わないと。
「私、貴女のこと、長いこと借りてた」
嘘を、終わらせよう。
「へえ」
興味があるのか無いのか、わからない声。そういう反応を示すってわかっていたから、私は告白という名の懺悔を続ける。
「……憧れていた貴女になりたくて、高校に上がってからずっと、貴女という存在を真似ていた。貴女になりきっていた」
「うん」
告げるたびに嘘の私が、徐々に溶けていくのがわかる。
強い彼女の姿を借りて、楽に生きようとしていだなんて、本当に烏滸がましかったと思う。
「でも、だんだん、私がなんなのかわからなくなって、貴女の姿に依存して、私、迷子になってて……だから」
「だから?」
勝手なことを言ってるのはわかってる。けれど、こうして告白でもしないと、私はきっと帰れない。だから。
「今日、私は告げることで、貴女を返します」
とっても馬鹿みたいな私の告白を、彼女は適当に頷きながら最後まで聞いてくれた。これで私は、私に戻れるのかな。でも告げたことで迷子だった心はだいぶ晴れた気がする。
あとは彼女の……
「そっか、じゃあ」
白い息を吐いた彼女が、冷たい手を私の手に重ねる。
その手首には、また真新しい赤い傷が、生々しく覗いていた。
「ずっと長く借りてた分、延滞料金、払わないとね」
ああ、やっぱり。彼女はあの頃の彼女のままなんだ。変わらず、強いままだ。
ハイエナのように他人に依存して、表向きは強く見せる彼女。そんな表向きだけを私は知っていて借りていた。
返すとなれば、引きずり込まれるのは目に見えていて、私は。
覚悟と恍惚込めて。好奇心に堕落を望み。
彼女の手を強く、握り返した。
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