kurayami.

暗黒という闇の淵から

終日公園

 木々が陽を遮る出口の無い暗い公園を男は歩いていた。朝から、深夜からずっと。冷気と湿気が混在する温度は、男の顎を濡らし、歩く気力を奪って鬱を与える。そんな足が自然と探すのは心地の良い〈ひだまり〉だった。
 暖かさに求めるのは、人並みの幸福。
 成功。繫り。微睡。安静。勝利。日常。
 乾いた砂利を踏み付けて男は進んでいく。本来ここにいるべきではないと、確証の無い焦りを胸の内に潜めて。暗く閉ざされた公園の中は風も無く、姿の見えない黒い鴉が高い声で鳴いている。
 男は進む道沿いに、ベンチに重く腰をかけている人間を見た。それは一人だけではなく幾人も。誰も長い間ベンチに座っているらしく、遠くを見つめたり、俯いたりする顔には蝿が止まっている。男には座る人々が、何処か自身に似ているように見えた。それはボロボロになったスニーカーか。半開きの淀んだ目か。欠けた爪先か。男はベンチに座る人々に長く目を向けられない。
 腐葉土が敷き詰められた広場に男は出た。そこは他の場所よりも湿気があって、柔らかい地面に体力は削られる。腐葉土の隙間からは、陽に当てられることのなかった成功者の遺体が顔を出し、ハサミムシに食い漁られていた。人並みの幸福を望む男は遺体とハサミムシを踏み付けて進んでいく。 幸福は必ずそこにあると信じて。
 歩くことに疲れた男が辺りを見渡した。公園は相変わらず出口の無い暗闇と霧に包まれていて〈ひだまり〉は見当たらない。立ち止まってはいけない、座ってはいけない、進まなければならない。一度きりであろう人生を諦めることのできない、男の疲れ腐った意思は消えることなく、ふらふらと歩みを進めていく。挫折者と遺体を何度見ても、未だ見ない〈ひだまり〉を求め続けて。
 錆びれた遊具。音を立てて一人でに揺れるブランコには誰も乗っていなかった。男にとっては遊具は誰が遊ぶモノだったのか、その形に何の意味があるのか見出せず、壊れた記憶からは懐かしいという感情も湧き出ない。
 そんな遊具の向こう側に、目に優しい明かりを男は見た。思わず駆け出して縋るように明かりを目指す。今度こそ人並みの幸福を。息を切らして男は腐葉土を蹴っ飛ばし、ベンチを無視して勢い良く走った。
 男の視界に入ったのは、青々とした草原に、太陽の匂い。そして、
 中央に立派に生える大木に、祈るように首を吊っている人々の遺体。
 求めた理想の幸福が存在しない、犠牲有っての〈ひだまり〉。
 見慣れた景色に肩を落とした男は、求め続ける終日の中へと戻っていく。夕を迎え深夜を歩き、再び明ける朝の気配に新鮮さを忘れている。
 終焉まで彷徨い続ける日の中で。

 

 

 

 

 

 

nina_three_word.

〈 ひだまり 〉
〈 ひねもす 〉