kurayami.

暗黒という闇の淵から

少年快美カヰコ

「今、助けてあげるからね」
 私の声を聞いた目の前の少年は、細く涙を流している。まだ思春期を迎えたばかりの年齢。小さな頭から生えているブロンドの髪は輝いていて、年頃の少女のような内巻きのボブヘア。対して瞳の色は漆黒で涙を流してキラキラしていて星空みたい。血管が青く浮かぶ白い肌は傷つけられることを望んでいるかのようで、透き通っていて綺麗。腕も指も細くて、短くて、簡単に折れてしまいそうだ。
 着ている日本製の女生徒用セーラー服が、よく似合っているよ。
 男らしさが微かに滲み出る、健康的な白い太ももに私は思わず高揚した。
 しかしそれも、少年の〈篭った声〉に我に帰る。その小さくて柔い唇を見れば、真綿が次々と溢れ出ていた。いけない。早く〈原因〉を取り出して助け出してあげないと。君が窒息死してしまう。
 飾る死体として愛でるには、まだ早過ぎるから。私は焦りと共に片手に握ったナイフを持ち直す。少年は可愛く可哀想なことに、まだ恐怖に怯えて涙を流していた。多少の罪悪感。けれど、目の前のいたいけな少年を解体したい欲望が、私の退廃的な感情を一時的に凌駕した。
 詰まる真綿に苦しそうにしている少年を万歳させて、セーラー服を脱がしにかかる。露わになった華奢な身体。肋骨が浮かんだ平らな胸部には、赤の刺繍が入った黒いブラが着用されている。苦しさと恥じらいを表情に混在させて見せた少年を見て、私は思わず私情でナイフを深く胸に刺し込んだ。
 痛々しい〈篭った声〉の叫びと共にブラが二つに裂けて、とろとろの深紅の血が少年の真綿だらけのスカートへと流れ出る。その瞬間だけでも美しくてずっと見ていたかったけれど、私はどうしても止められなくて、刺したナイフを臍まで下げた。切れ味の良いナイフでケーキを切り分けているみたい。ナイフでお腹を広げてみたら、紅と黄の内側に太めの腸が渦巻いている。血は溢れ続けている。ここだろうかって切り取って覗いてみたら、ここではないみたい。じゃあこっちの綺麗な肝臓かなって取り出してみたけど、中にはいなさそう。
 ううん、本当はわかってる。口から入れてしまったのなら、そこにいるって。でもこうして君の内臓を取って、心臓に触れることが出来るのは、大切な全てを剥奪をしているようで素敵で贅沢で、癖になる。
 少年の〈篭った声〉による叫びが、弱くなっていることに気付いた。そろそろ助けて抱きしめようと思って、私はナイフを胃へと軽く刺し込む。
 いろいろなモノが溢れ出る中に、真綿の〈原因〉である妖蚕を見つけた。私の手のひらに出ても、 繭を作り続けていソレを、軽く握り潰して殺す。
「もう大丈夫だよ。よく頑張ったね」
 そう言って私は少年を抱きしめる。私たち二人は美しい血に塗れていた。私に頭を撫でられ、とびっきりの愛を囁かれている少年は、言葉が出ないまま。
 ああ、そうか。喉に詰まった真綿を、取り出してあげないと。

 

 

 

 

 

 

 

nina_three_word.
〈 真綿 〉
〈 口篭る 〉
〈 剥奪 〉