kurayami.

暗黒という闇の淵から

腐らん死体

 ついこの前に過ぎ去った幻のような秋の中で、私は恋に溺れて、暗い底へ沈み続けていることに気付いた。
 これはまだまだ、日の浅い恋。
 好きになった相手は、一つ下の学年の性格が悪そうな、綺麗な男の子。
 全く、殆ど話した事がないの。私とその子の間にあるのは、同じ文芸部という小さな接点だけ。たまには話しかけてくれるけど後輩なのにタメ口で生意気。でも、こんな私にも話しかけてくれる。その度にありがたくて、気持ち悪いことに幸福に満ちていて、私は残念なことに何も言えなくて、ついついあの子の頬にある綺麗なホクロを見つめてしまうんだ。
 これは恋というより、アイドルへ持つ気持ちに近くて、でもやっぱり恋。
 何も考えないで、ただ「すき」と思うだけ。
 私には「きっと大丈夫」だとか。「うまくいってる」だとか。そんな前向きなことは言えない。むしろ「絶対に釣り合わない」だとか。「一生触れ合えない」だとか。お似合いの当たり前ばかりね。
 だって私、醜い腐乱死体。
 この恋は、絶対に成就なんてしない。ううん、しないことだなんて当たり前なのに、そうやって悲劇的になることだって烏滸がましい。あの子には好きな子がいるんじゃないのかしら。きっとそう。それに私は、私は、きっとあの子にだって嫌われてるから。こんな顔は好みじゃないでしょう。年上なんかに好かれて気持ち悪いでしょう。私の臭いも、趣向も、癖も。何一つあの子は嫌いで、気に入ってくれないに決まっている。絶対にそうだもの。ああ、好きでごめんなさい。本当は私なんか視界に入れたくないんだよね。だからわざわざ話しかけてきて、察して欲しいんだよね。部活にも行かない方がいいってわかってる。だとしても私はあの子のことが大好きで、白い横顔から目を離せないから、嫌われ続けるしかないんだね。ごめんね。生きててごめんなさい。
 全部、私の憶測でしか、ないけれど。
 本当のことなんて、理由なんて考えたくない。誰よりも知る自身から起こる結果を、考えたくなくて……憶測をして逃げているだけなの。でも憶測だからと言って、あの子が私のことを嫌いなのは、変わらない事実。あの子は私のことが嫌い。嫌い。私の中の事実。勝手にあの子への恋に溺れて、勝手な憶測で失恋して、気付いたときには溺れて沈んで朝のベッドの上で泣いている。
 だから、腐乱死体。何も考えないで、お馬鹿で、喋らない醜い私。
 哀しいけれど、あの子が好いてくれるはずがないの。

 

 

 

 

 

nina_three_word.

〈 無言 〉
〈 安易 〉
〈 憶測 〉