kurayami.

暗黒という闇の淵から

終心

 私は何かに呼ばれるように、外へと出た。
 水曜午後三時半、雲のかかった冬の空が高く舞い上がってる日。洗濯も課題も全部やることは済んでいた。コンビニへ行こうにも買いたい物は何も思いつかない。一体、私は何に導かれているというのだろう。そもそも気のせいなのかもしれない。気まぐれに出掛ける理由なんて、どうでも良いけれど。
 絡まったイヤホンを解いて耳へと招く。一曲目に何を聴こうかと迷って、気分的に夜っぽいバンドを選んだ。朝には朝のバンド、昼には昼のバンドと私の中で決まっている。夜っぽいバンドは、落ちるような気分を継続させるような雰囲気、覚悟を決める歌詞を流すバンド。そう、なのだけれど、こんな日中午後に聴くことはあまりない。
 少しだけ落ち着かない。こんな日は貴方に会いたくなる。
 叶わない気持ちを引きずって、複雑な住宅街の中を進んでいく。気まぐれに意味なんてない、それはどうして? なんて、よくわからない自問自答を繰り返して、小石を蹴って、平和な天気。誰も死にそうにない。ああ、そっか。何を考えたら良いかわからないんだ。何かを考えたいと思っている。
 どうしてだろう。やっぱり落ち着かないからかな。なんでだろう。なんで。ううん。私の中で〈会いたい〉が暴れている。でも、そのうち、加速して、爆発して、気付く。〈会いたい〉から落ち着かないわけじゃないって。落ち着かないから……じゃあ、この気持ちは。
 ふと足が止まって、街を横断する大きな川の前に立っていた。平日だからか誰もいない。私だけ。だから、とっても広く見える。
 川も。街も。空、も。
 あっ。
 気付いて、しまった。落ち着かないのはいつもより空が高く、広く見えるから。なんてことのない冬の空だけど、端から端へとかかる雲が大きなことを主張している。まるで、全てを飲み込んでしまいそうなほど。人も街も、冬も物語も貴方のことも。そんな青と白の模様空がとても怖くて……美しいと思って、落ち着かない正体。
 私がちっぽけで、ただ想うことしかできなくて、些細な存在だと思い知らされてしまう。ああ、この広い空の中で何処へでも行けるのに、例え貴方に会えるのに、深く暗い気持ちに飲み込まれて、なんだか自信がなくなっていく。広大を前に成す術を無くして絶望してしまっている。私はどうしようもない。小さくて小さくて、小さくて。
 そして、少しだけ消えたいと思って、笑った。
 海のように波打つ空、
 私は活字となって、
 幽霊みたいに揺らぎ、
 ふわっと薄れていく。
 終わる気持ちを。

 




nina_three_word.
〈 靉靆 〉