kurayami.

暗黒という闇の淵から

珈琲に浮かぶ白々

 聖夜の音色と光が響き渡る東京都心の街。冷えた夜空の下には不幸と呼べるような珈琲色に幸福のミルクが落とされて、十二月独特の柔らかな雰囲気が醸し出されている。しかし、それも長くは続かない。クリスマスを終えればあっという間に年末が来て、その年が終わる。
 まるで過ぎていく少年時代。夢。
 十二月は幻。最終決戦地。
 そして事実は、どこの街でも変わらなく、西の果てとて同じだった。
 西へ、西へ。最果ての街へ。太陽の街へ。八王子へ。
 どの街にも聖夜は影を刻々と伸ばしている。
 誰にでも〈アドベントカレンダー〉は迫る。
 布団で寝ていても。失恋しても。布団を剥がれても。
 例え一年間執筆を、終えたばかりでも。
「見て見て、骨くん。今日も八王子の夜空はよく見えるよ」
 ボリュームある黒いショートボブをふわふわと揺らす、お姉さんらしさに溢れる女性……星さんが、暖炉ある部屋の窓の外を見て呟き、振り返る。
「冬だから、ですか?」
 一人掛けのソファに腰を掛けた、色素の薄い痩せ細った少年……骨くんが呟きに答えた。
「それもあるけど、夕方に降っていた雨が埃を落としてくれたってのもあるみたい」
「へえ……」
 吐息混じりに嬉しそうな声で話す星さんに対し、露骨に暗い声で骨くんが返事をする。
「どうしたの」
「いや、本当にアドベントカレンダーが始まるのかなあって、思いまして」
「ああ、千代恋雨がずっとやりたかった〈星〉〈花〉〈骨〉の勉強を一年執筆がやっと終えた今、編集部恒例のアドベントカレンダーと兼ねて八日遅れで小説調で始めるって話?」
 息継ぎを控えめにそう言った星さんが、骨くんの正面のソファに座った。
 アドベントカレンダー。それは本来クリスマスまでのカウントダウンを兼ねたお菓子有りきの素敵カレンダー。しかし何処で捻じ曲がったのか、近年ブロガーの間ではクリスマスまで毎日記事をあげるという、タイム〈キラー〉な文化となっている。
 そして、星さんの言う通り、千代恋雨はずっと〈星〉〈花〉〈骨〉の勉強がしたかった。一年執筆が始まる前はやろうやろうとして……いや、多分やらなかった。怠惰で救いようがなかったから。しかし今なら、一年執筆を終えた翌日の今日なら、小説っぽくこの子たちに会話をさせて、楽しく勉強が出来るかもしれない。タイムが〈キラー〉されたとしても。
 暖炉の火はまた燃え始めたばかりなのか、少し弱い。
 白い肌を火に照らした骨くんが、口を開いた。
「うん。千代恋雨がずっとやりたかった〈星〉〈花〉〈骨〉の勉強を一年執筆が終えた今、編集部恒例のアドベントカレンダーと兼ねて八日遅れで小説調で始めるのは……良いんです。でも、星さんの〈星〉の話は神話や美しさがあるので、素敵混じりに語れるじゃないですか。〈骨〉って……〈骨〉ですよ。何話せば興味持ってもらえるか、楽しいのか、わからないな不安だなって」
「思ったより深刻。んん、でも、大丈夫」
 自信に満ちた言葉。そして、星さんが意味有り気に目を瞑り、しばらく考えて沈黙する。
「……星さん?」
「えっと、ほら。オリオンにも骨はあるんだよ」
「ありますけど」
 それがなに。そんな顔をして骨くんが目を細めた。

 八日遅れの最終決戦地、十二月。
 アドベントカレンダーが今始まる。

 

 

 

 


ni℃
〈 キラー 〉