kurayami.

暗黒という闇の淵から

ドロップ

 落し物をした。
 雪が積もった杉林の中に、僕は落し物をした。雪に足を持って行かれて、歩き辛い。昼間に来て正解だったのかもしれない。夜だったらもっと、歩けなかったかもしれない。
 落し物は、よくする方だった。特に大切なもの。友達から就職祝いにもらったボールペンだとか、彼女が誕生日祝いにプレゼントしてくれたネックレスだとか。ネックレスなんかは、彼女と喧嘩をしてしまった。
 よく落として探すことが多かったせいか。見つけるのも得意だった。得意、というより手元に自然と帰ってくることのほうが多い。帰ってくるものは、帰るべき運命にあるのかもしれない。
 前にここに来た日は、雪が積もってない夜だった。落とした時とは景色が全然違う。木の並びだけで、探さないといけない。落とした場所には心当たりがあった。たぶん、この三本の杉が、綺麗に三角形を作ってる辺りだ。
 三角形の中に足を踏み入れたとき、足元で何か、物体に当たる。ごろっと、重量を感じた。足元の雪を蹴ってそれを確認する。
 物体の正体は、交際していた彼女の太腿だ。
 物体には食い散らかした跡が見られた。どうやら、獣が掘り出してしまったらしい。ああ、探してはいない落し物が見つかってしまった。深く掘ったのに、その甲斐はなかったらしい。残念だ。
 辺りを手探りで探すと、他にも物体が出てくる。ほとんどは、僕が運びやすいようにバラしたのだけど、いくつかは獣によって引き千切られていた。雪によって冷えていたせいか、臭いはそれほどしなかった。
 落し物はやっぱり、この中に落ちていた。母校の名前が記された、卒業記念のボールペン。掘っているときに落としてしまったらしい。物体と一緒に見つかっては困る、殺したのがバレてしまう。
 物体を埋め直そうか、少し悩んだ。結局そのままにした。たぶん埋めても掘り返されるし、もしかしたら、このまま獣が食べ切ってくれるかもしれない。
 半ば獣に願って、杉林をでることにした。
 落し物は、見つかったのだから。

 

 

妖怪三題噺から「物体、学校名、杉」

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