kurayami.

暗黒という闇の淵から

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ティアレイン

午後昼過ぎの暗雲の下で、私の小刻みな足音が小さくタンタンと、響いている。 何処に向かってるかなんて目標はない。だけど、いつまでも走れる気がした。この町に嫌われている長い坂だって、このままずっと登れる。 例え、デートのために整えた髪が乱れても…

駄目人間

終電過ぎの駅には、くたびれた人間しか存在しない。 それは駅前に設置された、小汚い喫煙所にも。取り残された奴、残ることを選んだ奴、これから家に帰る奴。疎らにしか立っていないこの喫煙所の人間は皆、平日の一日に殺されかけている。 例外なく、残業上…

泉の底

夜の曇り空に赤い光が反射して、夏の祭囃子が町に響いている。 そんな夏祭りから逃げるように、二人の少女が町の外れにある神社へと訪れた。 神社は、まるで賑やかな町から切り取られたかのように、冷たく静かな空間を保っている。「思ったより、人いないね…

雛鳥の初恋と終わりの後押し

私が可愛く鳴けば、仕方がないと言わんばかりの顔をして餌をくれる、甘い甘い貴方のことがとても、好きでした。 私が〈育て屋〉に預けられたのがもう、七年前のことになるのね。 窮屈で、とても女臭くて辛気臭い場所だったわ。過半数の女の子たちが〈女〉と…

終わってしまえばいいと呪うまで

大人の取り決めた枠から、生活を供給されている子供は逃れられない。 それが例え、子供たちの中に確固たる意思があったとしても。 「……なんで」 夏の夕暮れ。公園のブランコに座った男の子が、絞り出すような声を出した。 女の子は黙ってブランコを二往復漕…

エスシーエス

砂浜が僕の足を取って、踏み出す足が重かった。 振り返ると彼女が少し遠くてしゃがんでる。白いワンピース風の水着が、黒と藍の景色の中で主役になっていた。 この海岸には、僕らしかいない。 雨の日に海に行こうだなんて我儘を言う彼女がいて、夕方海に着く…

迷子の先は

参ったな。これは、どうしたことか。 さっきまで、さっきまで私は……ああ、そうだ。私は職員室で、明日の実験を含めた授業の準備を終えたばかりだった。 午後八時のことだ。ついでに、桐山に「その、浅川さん……すみません」なんて、反省した犬みたいな調子で…

不器用に先を

下の階から、家のインタホーンを鳴らす音がした。 私は反射的に少し湿った布団を頭に被る。嫌な予感がした。午後五時、学校終わりに人が立ち寄るような時間。 嫌だな、誰にも会いたくない。誰とも、話したくない。 布団にうつ伏せになって、耳を澄ました。母…

一人家焼肉

一人暮らしの男が、家で寂しく焼肉をしちゃいけないなんてルールはない。 むしろ一人だからこそ、家だからこその自由がそこにある。買う肉、焼く肉に文句を言うヤツもいない。焼くペースをいちいち気にする必要がない。焼きそばの気分になれば、突然嵐のよう…

0170721 片瀬海岸江ノ島にて海初心者二人。

21日前夜。逢坂さん(@chihiro_aisaka ‬)と何処に行こうかと一瞬迷った末に、スポッチャを含めた候補の中から江ノ島が選ばれました。今回は、そんなノリの休日の中で逢坂さんが撮ってくれた僕の写真になります。たくさん遊んできました。 初の江ノ電に盛り…

/ワンデイ

ゆめ、夢見てた。 なん、だっけ。 みんな死んじゃったかも。 でも、私は幸せだった。 ん、まだ眠いや。 でも、お風呂入らないと。 仕事に遅刻しちゃう。 蝉が鳴いてる。今年初かも。 眼鏡が見当たらないよ。 あった。レンズ汚い。 私にお似合いね。 お母さん…

スイーツスイーツ

二人の少年が、一つの小さな世界を下方に挟み、対峙していた。 そのうちの一人は、市販の紙マスクで口を隠し、第一ボタンまできっちり閉めた白シャツを着て、上からゆったりめの黒いポンチョを羽織った〈パリパリの白チョコケーキ〉の少年。 もう一人は、恋…

夏の寝床と冬の迷子

扇風機だけが頼りの、蒸し暑い夏の夜。 枕元にある携帯のディスプレイが、ぼんやりと暗闇を明るくした。 一回、そして二回三回と、携帯がモールス信号のように振動する。 また、あの人だ。 もしかしたら別の人かもしれない。あの子かもしれない。だけど、こ…

シカバネテツバット

遠心力が俺に自信を付けてくれる。無力の零から、一人分の命を消せるぐらいには。 何故だか何時からか、俺は家族の教室の町の世間の世界の嫌われモノで、まるで拠り所がなかったんだ。ああ、それは別に良い、嘆く必要はない。自業自得だからだ。俺が容姿端麗…

初夏心中

「ねえ、どこに行こうね」 高校生の女の子は、隣に座っている同じ高校生の男の子に、明日の予定を聞いた。「どこ……どこにしようか。綺麗な、空が見える場所が良い」 男の子は、暗い顔で遠くを見るように、女の子の問いに答える。 二人が座っているのは、山の…

生きること、この世界のこと

突然の天気雨が、過疎化した町に降り注ぐ。私は思わず、だいぶ昔に閉店されたカフェの屋根を借りて、雨宿りをした。夏の熱気を暴力的に冷ますように、雨音が地を心地良く叩いてる。高校の帰り道、少し短い夏服のスカート。 今日は終業式間近だからって、少し…

海の日

海の日。それは、この酷く蒸し暑い七月にうんざりする者たちの、仕事に疲れた一部の社会人の、固定休日が合わない恋人たちの……救済処置的祝日だ。 私はこの全てに該当する。「今年は今まで一番暑い」だなんて年々よく聞くが、そんな文句も許されそうなほど、…

たくさんのハートを

「お前は本当に、怪しからん奴だな」 溜息をついた女が、写真を片手にそう言った。 書斎のような部屋に、机を挟んで女と男が座っていた。「何遍言ったらわかるんだ。無駄に散らかすな、と」 男にとっての常連の依頼主、女……カナシマが写真を机の上に放り投げ…

長机の中で再会

前々から気になってはいた。しかし、入る理由もなかった。 だから、こうして入るのは、同僚の悪ノリだとかそういう理由付けが無ければ、今後ずっとなかっただろう。 新宿、歌舞伎町、その奥。呑み会と水商売のキャッチの賑わいから離れ、静まり返ったラブホ…

フィクション

運が良いことに、私はとても幸せだ。 あの頃は何もなかった気がする。空っぽで何もなくて、ヘラヘラしてれば良いと思っていた。時間の空白への恐怖に麻痺し、目を背け、毒の中で怠惰に堕ちていることにすら気付かないまま。 思い返してみれば、とても恐ろし…

ティーレックスたち

最初に殺されたのは、三年生を担当していた現代国語の教師だった。 それが一昨日のこと。昨日は二年生担当世界史と、三年生担当情報Cの教師が殺された。評判の悪い教師ばっかだな。 まあ、この学校に評判の良い教師なんて、いないだろうけど。大人しめの僕…

嫉妬地獄

刑務所の面会室のような場所に、私は座っていた。 橙色の小さい蛍光灯頼りの暗い部屋。孤独を象徴するような事務的な椅子。あちら側とこちら側を遮断する、厚い厚い硝子窓。 そんな硝子窓の向こう側。ベッドの上で愛しの貴方が全裸になって、知らない女に食…

悪と惡

雨が二日三日と降り続き、恋人たちが口を開けて灰色の空を見上げていた、その日。仕事の疲れが取れず、恋人たちの骨が疲労に悲鳴をあげていた、その日。「あ、れ。ん、あれ」 雨の雫が滴る恋人の男が、家の冷蔵庫を開けて疑問の声を出した。 男の声を聞き、…

いずれアイリスか雪落とし

私の中で芽生え、歪み、枯れることのない、常花なこの……密かな想い。 貴方にとっての〈理解ある女友達〉を演じて、もう四年になります。私が〈高校の部活の後輩〉という、不利な立ち位置から始まったにしては、よくやった方ではないでしょうか。 貴方の恋路…

カフェのあの頃

小さな駅を降りて徒歩七分の場所に、俺のカフェは静かに佇んでいた。 錆びたシャッターを腰を降ろし、思いっきり引き上げる。引っかかるようなうるさい音と共に〈カフェ・シラキ〉と、赤色の文字でプリントされた硝子窓が俺の目の前に現れた。 シラキ。この…

ヒメウツギに保たれる

もう。また、貴方から匂ってる。「ええ、そんな臭いかなあ」 臭くないよ、いつも通り私の好きな匂いだよ。そう言って私は、貴方に抱きついて甘えた。 そうじゃない。ううん、そうじゃないの。そんなことを言ってるわけじゃない。貴方、最近私以外の女と会っ…

夢恋メンタルクリニックでワンペア

「ああ、聞いてください。私ずっと、頭が痛いんです」 女が主治医にそう訴えた。「ふむ。風邪というわけではなさそうですね。というと、やはり……以前仰っていた通り、仕事が辛いですか?」「……ええ、とても。仕事に行くことを考えるたびに、痛みは増していっ…

約束のメトロポリタン

「いらっしゃいませえ。あっ」 バーの扉を開くと、懐かしい顔のバーテンダーが僕を招き入れた。 木曜の夜ということもあってか、客は一人もいない。「盛り上がってますね」「まあな! お前みたいなのが来たらそりゃあ、盛り上がるわ!」 僕の冷やかしを余裕…

言い訳

この揺らぐだけの真っ暗闇の中に篭って、何日が経ったのだろう。 もう、贖罪の意識に覆われ何年が経ったのだろう。 鑑識官だった頃の記憶が、酷く遠く感じる。「おい! やっぱり中から音がしたぞ」 先輩は元気だろうか。強く生きているだろうか。 まあ俺にそ…

蓮のプリムラ

生気を掻き消した十畳の和室の中を、夏の日差しが縁側から伸びて、薄く照らしている。遠くから油蝉の鳴き声がして、目の前の仏壇から涼しげなリンの音が聞こえた。 優木江莉香が死んで、今日で三十五日目。 今日のお参りに、私ともう一人、女の子が来ていた…