kurayami.

暗黒という闇の淵から

2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧

見ぃぅぇぁ

ねえ、ね……ぇ。聞こえますか。ワタシの……ぇ聞こえますか。見えていますか。ずっと貴方に……ぅして、話しかけるのは、もう…………ぃ目に、なるのですが。まだワタシを、見……ぇくれないのですか。ええ、それ……ぇも大丈……ぅです。もう慣れま……ぃたから。それにもう…

ウェンディガール

「大丈夫、心配しないで」 私は彼が投げつけて割った白い皿の破片を、怪我をしないように拾った。「何が……何が大丈夫なんだよ」 彼は声を荒あげて怒る。ああ、すぐにでも、何か物を壊しそうな勢いだ。そう察した私は、静かに彼に近付いて抱き寄せる。「うん…

胃の中の余命

医師に余命四年を宣告されたとき、僕は「まだ結構あるな」と感じた。 長いようで、短いような。そんなことを考えながら、彼女との待ち合わせ場所に向かう。「死んだりしたら駄目だよ、約束だからね」そう、彼女が言っていた から重要なことだと思って、告げ…

Hの怒り/一人も残さない

燃え盛る炎の中で、男は愛する恋人を手に掛けていた。 男の拳は恋人の胸を抉り、中の内臓を引きずり出し黒く焼いている。嗅いだことのない臭いが、男の鼻についた。 男はその殺害を望んでいなかった。意思とは関係なしに暴走する身体。全ては奴らの仕業。「…

罰を産む

僕が二十五歳になったその日。朝一でソレは届いた。 〈歳を取ってから会話した人一号〉となった配達のお兄さんに、おはようございますと笑顔で挨拶し、受け取った赤いペンで書き慣れた姓をサインして荷物を受け取る。 ソレは、やけに小さな立方体の箱の形を…

雨の旅人

日付が変わり、空が闇に覆われる少し前。子供は眠る時間。 南に位置する、魔法使いたちが暮らす三角座街。黄色い屋根の下でのこと。「ほら、はやく眠らないと憂いの王が攫いに来るぞ」 父親らしき男が、ベッドに腰を掛けた息子に対して、諭すように優しく言…

コンテニュー

数多の流れ星が降り注ぎ続ける、世界の果て。そこに生まれたのは、世の全てを暗闇に飲み込む憂いの王だった。 このままでは世界の希望が絶やされてしまう。そのことを恐れたアルピレオ国王は夢の言い伝えにある、最後の希望〈月に魅入られし勇気を灯す者〉を…

狭い青空と黒いシルエット

この紅煉瓦の街では、よく雨が降る。 故に、傘を常備する住人が多かった。ああ、雨のことなんて知らずに訪れた旅人がよく、しかめっ面をしている。旅人の癖に情報不足なのが悪い。 住人たちは傘派と、折りたたみ傘派と大きく二つに別れる。その他の人たちは…

夢見の藍少年は紅色幻に醒まされる

朝の光が、白いカーテンを通して部屋を眩く染めている。 ベッドに小さく腰を掛け、血と、溜め息を吐いたのは、紅色が似合う“少女”姿。 対して、その足元に座り込み、めそめそと涙を流すのは、藍色が似合う少年。 世界は……まるで二人以外が眠っている夢みたい…

無骨な彼

「あの、あの、ちょっといいですか」 午後十時の街角。疲れ切った身体が無意識に癒しを求める時間。 私はたまたま通り掛かったスーツ姿のお兄さんの、その長い指が気になって引き止めた。 お兄さんは、警戒もせずに振り向く。「なんでしょう?」 優しそうで…

すりる

昼に付けっ放しの灯のような、何処か、間抜けなヤツ。 俺がアイツと初めて出会ったのは、高校二年生のクラス替えのとき。アイツ……津田沼優一の席は、竹中である俺の後ろの席だった。 俺が話好きで津田沼が聞き上手ということもあって、しょっちゅう後ろを向…

蔑ろにしないで

東京都世田谷区、古いマンションの最上階、空き部屋に挟まれたその部屋。 男が、最後の段ボールを片付けた。新居に積まれていた段ボールの小山は無くなり、男の私物と趣味に溢れた男の城が出来上がっている。 男はリビングに立ち、周りを見渡した。小物の配…

青空と風

「貴方と二人で旅がしたい。いや、しましょう」 僕の方を見ないで、彼女がそう言った。この見晴らしの良い、学校の屋上から。フェンスの外側で。 不気味な青空が、どこまでも広がっていた。敢えて今が何時だとかは言わないし、考えない。 ただ、空が青いだけ…

カムヒア

「おいで」 そう咄嗟に言ってしまったのは、きっと飼い猫たちに日常的に言っていたから、だと思う。 あの時の、私が呼んでしまったときの、貴方の顔を覚えている。 どうしたらいいかわからないのか、恥ずかしそうで、そしてなんだか、悔しそうだった。「なん…

夢見る者たちの外側

‪ 〈二百年に渡る雪の厄災〉が終わって、一年。‬‪ 世界が数百年ぶりに青空を見せてから、一週間。‬‪ 人類の調査が始まってから、百九十三日目 。‬‪「えーこちら、ニーシチ。ニーシチ。近辺が川だったと思われるエリアに入りました。新しい種子の採集が期待出…

サナギ

夏の陽射しが、私に鋭く刺さって苦しめている。身体の外と内側から熱を放出して、貴重な水分を汗に変える。 そんな熱の悪魔が、私の目的を一瞬だけ掻き消して、十字路の真ん中で足が止まった。 私は、何処へ向かっているんだっけ。「お姉ちゃん、もしかして…

神性殺害失敗

唯一無二、僕だけの、最愛の恋人だ。 艶のある首までの黒い髪。鎖骨下の誘惑の黒子。黒とワンピースが良く似合う、その白い肌。ナチュラルメイクと浮いた紅色の唇。筋の通った高い鼻。堀の深い見透かしたような〈笑み〉が似合わない瞳。 そんな魔女のように…

季節外れの青春

まるで時間が、巻き戻ったかのようだった。枯れてセピア色になりかけていたものが、十三年ぶりに鮮明となって返り咲いて、今私の目の前に存在している。 ミルクティー色のカーディガンの袖に、手の甲が隠れた彼は、私の部屋で勉強をしていた。テストが近いと…

窓の中

確実に座れることを望んで僕は、夜の池袋駅丸ノ内線のホームに来ていた。 赤いラインの入った列車は既にホームに入っていて、中には疎らに人が座っている。 僕は時間潰しも兼ねて、一番奥の車両まで歩いた。列車は、動く気配が全くない。 辿り着いた奥の車両…

生解

「あの、もし良ければお話、大丈夫でしょうか」 早朝、空が白み始めた頃。 広い河原の土手に座り込んでいた俺は、若い男の声に振り返った。 そこに立っていたのは、古い学帽と学ランに身を包んだ学生風の男。顔は童顔で、身長は低かった。まるで男子中学生の…

白み始めた終

いつまで経っても、夢の中へ落ちることはなかった。 寝苦しさのせいでもなく、暑さや寒さでもなく、空腹でもない。ただただ、想えば想うほど、眠気から遠ざかっていく。 この夜が明けてしまったら、世界が消滅してしまう。 その事実が、安眠をもたらせない。…

シュガーシンク

可愛いスカートを身に付けた私。目立たない行きつけのカフェ。壁際と窓際の狭間にあるお気に入りの二人席。空が曇り、白いカーテン越しに重たい光が射し込む、憂鬱混じりの木曜午後三時の休息。 私はこのカフェで二番目に好きな、ふわふわのチーズスフレに銀…

見知らぬオリーブ

私が殺人を犯し、山の中へ逃げて四年目のこと。 夕立が降った、初夏のことだった。 天気が変わりやすい山にとって、夕立自体は珍しいものではない。 珍しかったのは、その日の来客だった。 玄関で物音がしたのが気になって覗いてみれば、少年が雨宿りをして…

愛憎劇“心の形”

人に溢れた街。流れに、信号に、暑さ涼しさに。都合に左右されて、人々が動いている。 揺れる心を、頭上に浮かして。 私には、人の心が、形になって見えるの。 初めて見えるようになったのは、中学生のときだった。思春期の真っ只中、性に将来に友人に親に恋…

ソウルプロット

雨が上がって、まだ間もない公園。正確には、雨が今だけ止んで、曇り空の隙間から青空が覗く、晴れ間の公園。俺は屋根付きのベンチで、雨宿りをしていた。 今のうちに帰ろうと、ベンチを立った時。その男は〈雨の隙間〉から抜け出したかのように、俺の前に現…

赤頭巾とフェンリル

「食べてもいい、ですか」 両手を上げ動物が威嚇をするようなポーズで、男は女に向かって言った。 女は数秒だけ男の顔を見て、何事もなかったかのように、読んでいた雑誌に視線を戻す。 恋人たちは給料日前のような日曜日を、いつものように自宅で過ごしてい…

廃アパート

僕が足を踏み入れたのは、荒れ果てた住宅街だった。 何か食べ物はないかと家探しをしてみたけど、案の定、どの家も既に荒らされた後で何も残っていない。そもそも家が荒れすぎていて、何処に食べ物の気配があるのかもわからない。 代わりにあるのは、転がり…

求めるは同一

陽の光も届かない、豆電球頼りの暗い地下室。そこに一人の少年が、横たわっていた。 少年は小柄な身体に、整った小さな顔して、長い前髪を顔に掛けている。服装は制服のズボンに、白シャツ。しかし、乱暴でもされたかのように、白シャツは所々ボタンが飛び、…

人肉コロッケ

日曜午後の商店街は、徒歩二十分の場所にあるデパートに負けじと、明るく活気を見せている。 私はすることもなく、足の向くまま商店街に来ていた。 商店街は、人の様々な動きが見れ面白い。物を売りたい人、物を買いに来てる人、私のように彷徨う人。出入り…

ブラックフェイス

あの日……あの昼の陽射しと、少女ながらに絶望したことを、今でもよく覚えています。 それはもう、だいぶ昔のことでございます。私が幼い頃から、仲良くしくれていたお兄さんがいました。ご近所付き合いだったのかもしれませんが、そうだとしても、とても優し…