kurayami.

暗黒という闇の淵から

狭い青空と黒いシルエット

 この紅煉瓦の街では、よく雨が降る。
 故に、傘を常備する住人が多かった。ああ、雨のことなんて知らずに訪れた旅人がよく、しかめっ面をしている。旅人の癖に情報不足なのが悪い。
 住人たちは傘派と、折りたたみ傘派と大きく二つに別れる。その他の人たちはレインコート派や濡れたい派など、個人的に少し理解の出来ない派閥になる。レインコートは少しガサガサするし、お洒落を楽しめないからあまり好ましくない。ああ、でも、常にレインコートを貫き通している友人がいるんだけれど、そうやって通し続けているのは少しかっこいいと思う。濡れたい派に関しては言わずもがな。
 私は、折りたたみ傘派。
 常備出来るようなお洒落で可愛い傘は、大体高い。あと、荷物としての増え方が尋常じゃない。それに比べて折りたたみ傘はコンパクトだ。カバンの中に潜んで、必要になったときだけ出てきて私を雨から守ってくれる。開いた大きさも、最近じゃ普通の傘と変わらないような大きさのモノもある。
 折りたたみ傘の欠点として、急な雨に対して、すぐに展開出来ないことがあげられる。けど、雨がいつ降るかだなんてことは、私にはお見通しだから大丈夫。
 ほら、たぶん今にも雨が降る。私はお気に入りの暗紅色の折りたたみ傘を、急いで開いた。
 数秒後。変な音がして、私の傘にボトボトと雨が降り注ぎ、すぐに止んだ。
 折りたたみ傘の骨の先、紅い雫が少し溜まって、地面へと落ちた。
 この街の狭い青空と飾られた裸の罪人。私は、それを見上げて歩くのが好きなんだ。
 この街で悪いことをした住人たちは、罪人として〈罪〉という名のウィルスを打ち込まれ、高い位置に吊し上げられる。
 今だって見上げれば、狭い路地の空に、罪人が吊るされている。目に入るだけで男女二人。そのうちの、もう一人の男は膨らみ切って震えている。そろそろ張り裂けそうだ。
 私は、さっき展開していた折りたたみ傘を閉じずに、そのまま進んだ。そして、数秒後、男の罪人が鈍い音を出し、雨を降らし傘に音を立て、再び煉瓦を紅く染めた。
 見上げると、残った女の罪人が涙を流していた。恐怖するような感情があるということは、まだ罪人となって新しいのかもしれない。
 私は空に張り裂けそうな罪人がいないことを確認して、藍色だった折りたたみ傘を畳んで鞄の中に閉まった。
 煉瓦造の建物の狭い青空を見上げれば、罪人と罰のウィルス。恐怖の感情と張り裂ける肉体。ふわふわと浮かぶ、白い雲。
 この紅煉瓦の街は、よく雨が降る。
 

 

 

nina_three_word.

〈 見上げる 〉

〈 張り裂ける 〉

〈 折りたたみ傘 〉