kurayami.

暗黒という闇の淵から

2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ヤングドーナツの穴

トタン壁に挟まれた細い道の先、住宅街の裏と比喩するのが相応しいような入り組んだ先に、その駄菓子屋はあった。 駄菓子屋の前には、三人の男の子がメンコで遊んでいる。 そこに、キャップを被った男の子が恐る恐る近づき、それに気付いたタンクトップの男…

/新宿

新宿歌舞伎町靖国通り。 飢えた運転手を乗せた、 タクシーのオンパレード。 手を挙げりゃ捕まる、 馬鹿でも乗れる君好みのカー。 眠った昼も眠らない夜も、 タクシーのオンパレード。 新宿から繋ぐ、金の限り、懐の限り、 諭吉が尽きるまで、何処までも。 酔…

誘うお化け

「お母さん、もう帰っちゃうの」 複数のチューブに繋がれた少女が、寂しげに母親に向かってそう言った。 夜九時前。病院は徐々に、明かりが失われていく。「ごめんね、でも明日の朝になればまた会えるから。ね」「んー……我慢出来たら、いい子? わるい子じゃ…

死にゆく人

大勢の人が暗くした部屋の中で、天井に映し出された擬似的な星空を寝転んで見ている。双子座にオリオン座に、子犬座。冬の夜空。口にはまるで、長い間お預けにされていた玩具を貰った子供のように、笑みを浮かべている。 部屋の中央には、市販のプラネタリウ…

滲んだアルバム

冷たくて脈拍のない、思い出のインクが疎らに滲んだアルバムがそこにあった。 インクの滲んだ場所を避けて目を通すと、どうやらこのアルバムの主役は〈男〉だということがわかった。滲みは、奥に進むにつれて酷くなっていく。最後のページは、様々な色のイン…

セカンドプロローグ

これからする僕の〈話〉は、決して嘘偽り、虚構の物語、ではない。これから先の未来に始まる瞬間の物語であり、とある過去の何時かに起こった記憶でもある。しかし、だからと言って覚えておく必要はないよ。今、この〈話〉を聞く貴方は、過去の貴女でも、未…

ボーイミーツ

ユウイにとって、カリュは使えるモノだった。 貴族の男……ユウイは、この三十年間。使えるモノは全て使い、最後まで使った。そうやって今の地位まで成り上がったのが、ユウイだった。 ユウイの日常には、常に優秀な執事の男……カリュがいた。礼儀正しく、自身…

一夏の儀式

カラカラの夏休みのど真ん中、八月上旬。午後二時過ぎ。 連休に慣れ始めて暇が一周した僕は、意味もなく家を出た。炎天下に熱された黒いコンクリートが、高温の悲鳴を上げている。早速家を出るんじゃ無かったと、酷く後悔をした。クラスメイトは、今頃なにを…

純粋に好き

やわらかい揺らぎの中、私の素直な心情は、どこまでも透き通って、どこまでも見通せた。 この広い心情の中に、様々な思念が浮かんでいる。ぽつぽつと、いろいろなことが浮かんでる。私を脅かす不安、幸せな思い出、この先への希望。どれも孤独に浮かんで、互…

トワイライトベース

小学生の放課後、僕らの住むマンションの裏にある公園が、いつもの集合場所。いつからか「いつもの公園」だなんて呼んでいたっけ。 二人の友達が僕にはいた。同じマンションのトッシーと、秘密基地発案者の課長くん。本名を忘れてしまうぐらいに昔のことだけ…

無益な屋台

賑やかな音、暗闇の中でぼんやりと光る赤、黄、緑、白の明かり。 さっきまで、お母さんに手を引かれて帰っていたのに、いつの間にか森の中。お母さんはどこ。でも、こんなことで私は泣かない。だから、えらい。 迷子になったときは、おまわりさんか、怪しく…

愚かな事実の向こう側

その水流の音からは、高さと勢いを感じ取れた。今の私にとって必要な条件が揃っている。 人が死ぬのには十分な高さと、勢いを持つその滝は山の奥にあった。川の上流の方から夕陽が射し、滝の底には夕影が作られている。山々から夏の音と共に、涼風が流れてく…

あの子色

僕があの子と初めて話したとき、心が何色かに染まった。 明るい色だったと思う。黄蘗色みたいな、薄くて明るい色。それでいて少し暖かい。気付いたらそんな色だった、ああ暖かいな、その程度。 心が何かに触れると、灯るように色がつく。そしていつの間にか…

ノウハート

神の気まぐれも起きないような、厚い雲に覆われた暗い昼下がり。その子を助けたのは、僕の気まぐれだった。 薬品に枯れた森の外れ、女の子が逸れた兵士に襲われていた。 直感的に気に入らないと思ったのは、力の強い方。僕は〈想い〉を兵士に向けた。兵士の…

ユルサレル

マンションの屋上に、一人の少年が立っていた。 少年は色白で細く、夏の空気に合わない、紺色のカーディガンを着ている。 夕焼け。それは大人と子供にとって、受け取る感情が変わる景色。少年の目に映る景色は、日の終に満ちている。 少年のポケットに入った…

勝敗の行方

負けず嫌いの二人は、高等学校に入学し、同じクラスの振り割られた時に初めて出会った。 久野耕太と長谷川美優。共に容姿も、学力も、運動能力も、平均。しかしその負けず嫌いは、誰よりも強い。 そんな二人が初めて競ったのは、ある登校時。校門前で二人は…

上書き保存

聞かれてないから、隠し事。言ってないから、隠し事。 僕の場合は、言えないから、隠し事。 過去だなんて、記憶だなんて、知ったからどうにかなるわけじゃない。共有したところで、僕の身体にあるものはどうにもならないし、僕の認識は変わらない。彼女は帰…

グラトニーラヴァーズ

人より食事量が多い人だなあ、と僕が思ったのは、彼女と出会った頃のこと。 それは見るからに……という訳ではなくて、よく見ると多かった。学食での昼食、ファーストフードに入ったとき、飲み会のとき。大盛りとかじゃなくて、品数が多い、そんな印象。 食べ…

バスルームシーン

その映画は、電気が消えたリビングの中で、呆気ない終わり方をしてしまった。 宇宙船の中で鉢合わせたエイリアンとの死闘。仲間の死。そしてラストシーン……主人公のお腹の中に寄生したエイリアンを映して、バッドエンド。 エイリアンが何処から来たのかとか…

キャンディロープ

僕の前から彼女がいなくなって、二ヶ月が経った。「もし……私が帰れないとき、ああ、もしもの話だ。そんな不安そうな顔をしないでくれ。いつもの飴を瓶に詰めて、食器戸棚の一番上に置いておく。まあ、帰れないとき用だから、いつもより良いものを用意しとい…

降り続く

駅を出ると、雨が降っていた。傘の持っていない私は、目を細める。 しばらく駅の入り口で、降る雨模様を見つめた。駅から出てくる人は、この雨を予想して傘を持っていた人、傘を忘れたけど諦めて濡れて行く人と、大きく二つに分かれている。私みたいに、雨が…

菫色脳内

家から歩いて四十分のこの高校は、生徒が年々減っていた。 この田舎町の子の特性か、学校が悪いのか。先輩も、クラスメイトも徐々に辞めていく。 三十人いた僕の学年は、いつの間にか彼女と他、数人に減っていた。 彼女は、小学校の頃からの仲だった。異性と…

スプリング

杉林の中。真新しい雪の絨毯に、男の足が深く沈んだ。 硬く、踏むと厚い音が出るような雪だった。男は慎重に、杉に沿って歩く。 男が追っていたのは、二人分の足跡。足の大きさから、女の足跡だということが、男にはわかっていた。 男は警戒しながら進む。一…

虫食いフィルム

時を重ねるごとに、俺は劣化していった。 それはまるで使い古された映画フィルムのように、劣化していく。そのうち動きもしなくなるだろう。それを意味するのは終幕の〈死〉ではなく、ただ純粋な〈終焉〉だ。 フレームレートというのは、映像の中の一秒、そ…

夜間逃避行列車

揺れる車窓の外側、流れる暗闇に私は目を向けた。心許ない街頭が、田んぼの真ん中に立っているのが見えた。 私が乗ってるこの一両列車は、居た街と〈向こうの街〉を、山の隙間を三時間ほど走って繋ぐ。向こうに行く、孤独で唯一の、交通手段だ。道中幾つか駅…

クーヘンの死神

「お前さん、世間じゃ〈魔物〉だなんて呼ばれてるぞ」 陽当たりの良いテラス。そこに並んだ椅子に座った老人が、部屋の中にいる青年に向かって呟いた。 「魔物? ああ、お爺さん。バウムクーヘンは好きですか」「貰う」 青年は片手のトレンチに人数分の紅茶…

わがままの瘡蓋

土曜日、昼間。僕と彼女はベッドに腰をかけていた。 彼女の左腕に、ボールペンを真っ直ぐ立てて、線を描く。油性のボールペンだけど、それは薄い線となって、よれよれとなっている。まるで情けない。 彼女はというと、腕に落書きをする僕なんか見ずに、テレ…

トウキョーキスミー

見上げれば、暗緑色の天井。その奥、遥か彼方に、太陽の光が見えた。 この宿り木に覆われた樹海の中、どこを見ても木々が生い茂っている。よくよく見れば、懐かしい街並みが木々に覆われていた。 蔦の絡まった道路標識に〈一キロ 吉祥寺〉とだけ、書かれてい…

二人星

一等星のように、夜空の主役になるような女の子がいた。 可愛くて優しくて、話し上手の彼女は、輝いていて、学校の主役で、男の子からも、女の子からも好かれていた。もちろん、私も彼女のことは好きだ。 劣等星の私は、影ながら彼女を見ていた。どうしたら…

藤と松

「俺たちの永続性について話そう」 彼はそう言って、カーテンを閉めた。「永続性?」 もちろん私には、その言葉の意味はわかっていた。いたけど、わからないフリをする。あまり話したくない話題だった、わからないフリをすることで避けれると思った。「今の…