やわらかい揺らぎの中、私の素直な心情は、どこまでも透き通って、どこまでも見通せた。
この広い心情の中に、様々な思念が浮かんでいる。ぽつぽつと、いろいろなことが浮かんでる。私を脅かす不安、幸せな思い出、この先への希望。どれも孤独に浮かんで、互いに干渉して、心情に波をたてる。まるで騒がしい。
でも、透明が幸いした。貴方が何処にいても、すぐにわかる。見つけられる。この広い心情の中で、貴方の匂いは特徴的。まるで煙のように赤く漂って、形に見える。私は、それを鮫のように辿って、すぐに貴方を見つけ出すわ。そして真っ先に抱きしめるの。触って、髪を撫でて、触る。言葉をかける。大好きって。
私は貴方のことが好き。好き、好き。一番好きなの。その素直な性欲も、決断力も、人間らしいところも。
絶対離さないって、決めてる。その分、私は貴方に安心を、幸福を与えたいの。
こんな私に、安心を与えてくれたのだから。
貴方がたてた音で、目を覚ました。それは、私に来て欲しいときの合図よね。
私は寝室を出て、リビングに入った。貴方が、鋭い目つきで私を見る。
可愛らしい姿になった、貴方。私を追いかけた両脚は無くなって、イチゴタルトのような、真っ赤で綺麗な断面図が二つ。私を抑えようとしていた両腕も切り離されて、台所に脚と一緒に、お利口に並べられている。
「一緒に寝るのは、傷が塞がってからよ」
猿轡をつけた貴方が、呻き声を上げた。ああ、口が悪かったから塞いでいたのを、忘れていたわ。
私は優しく、猿轡を取ってあげた。
「……煙草、煙草を寄越せ」
「口が悪いわ」
「いいから、寄越せ」
何度言っても直してくれない。でも、少しずつ直してあげないと。
私は貴方の口に煙草を咥えさせて、火をつけた。なんだか、夫婦みたいで少し照れてしまう。
貴方の喫煙のタイミングを考えて、煙草を口から奪ったり、与えたりする。私がいないと煙草も吸えないだなんて、可哀想で可愛くて、愛おしい。
「ふふ、嬉しい」
つい出てしまった独り言を、貴方は無かったかのように反応しない。それも今だけ。貴方は孤独には勝てないことを、私はよく知ってる。
そんな顔しないの。私は、素直に貴方のことが好きなのよ。余計なことはいらない。貴方の性欲も、否定も、生活も、時間も、いらないわ。私が安心すればいい。
だから、その代わりに、貴方に安心と、幸福を与えてあげる。
私という名の、純粋な愛情による、安心と幸福。
貴方はもう、離れない。
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〈 プラトニック 〉