僕があの子と初めて話したとき、心が何色かに染まった。
明るい色だったと思う。黄蘗色みたいな、薄くて明るい色。それでいて少し暖かい。気付いたらそんな色だった、ああ暖かいな、その程度。
心が何かに触れると、灯るように色がつく。そしていつの間にか、薄れて消えていく。心の色とはそんなもの、だった。
だけど、あの子の色は中々消えない。消えてくれない。何度だって再生する真っ白な心のキャンパスを、あの子は何度だって乱していく。
ああ、それは、あの子は悪く無い。無意識に取り入れてしまう僕が悪い。しかし、あの子が僕に与える色は、とても豊かで素敵だ。
二人きりで身体を少し触れるような、刺激的なときは檸檬色。ただ触れるだけでこんなに乱すのは、まるで酸っぱくて息苦しい。
あの子が僕のこと優しい声で褒めてくれるときは、恥ずかしくて苺色。その声は僕の頬を染め、まるで甘い果実にする。
あの子が真面目な目をして、過去の文学を語るとき、僕は考えさせられるから萌葱色。研ぎ澄まされて、まるで涼しい。自然のなかにいるかのように、大きく共有している。
僕に、僕が考えないような過去への質問をして、あの頃を新鮮に別の角度で思い出すから、白茶色。あの頃の価値感を、あの子が教えてくれる。まるで知らない過去。
彩り豊かに、僕の心は〈あの子色〉に染まっていく。それが、心を動かされるということらしい。こうして僕の心を動かせる人は、世界に何人いるのだろう。「世界にただ一人」なんて馬鹿げてるようで、案外それは、数字の面で見れば正解なのかもしれない。
だからこそ、希少で、愛しくて、一緒にいたい。
その僕の感情は、色は、暖色で希望に溢れていた。
けど、あの子が〈心を染める力〉に、気付いてしまった。
それは、とても、残酷な、ことで。
あの子にとっては、少女性在る、無邪気で純粋な戯れだったのだろう。言葉巧みに僕を惑わし、言葉を向ける。まるでクスクスと笑うように。
あの子が、僕を狂わす。理性を外し、暴走する感情は肉体の中。飢えに似た苦しみが。永遠の苦しみが。僕を解放することを、あの子が許さない。
ポツポツと、色が心に落ちていく。僕の哀しみも落ちていく。濁り、色が滲み、混沌とさせ、容赦のないあの子の囁きが、色を重ねていく。数多の色の重なりは、決して、明るくない。それぞれの色が特徴を主張し、叫び、濃く濁す。
混ざり合った色は、一色になる。
どこまでも暗く、歪み光を許さない色。
これが、あの子の色。
nina_three_word.
〈 滲み 〉
〈 囁き 〉
〈 重なり 〉