家から歩いて四十分のこの高校は、生徒が年々減っていた。
この田舎町の子の特性か、学校が悪いのか。先輩も、クラスメイトも徐々に辞めていく。
三十人いた僕の学年は、いつの間にか彼女と他、数人に減っていた。
彼女は、小学校の頃からの仲だった。異性として意識するようになったのは、小学六年生のとき。彼女に対して、何かしたいという欲があることを自覚したのは、中学二年のとき。いつの間にか、言葉巧みに、付き合うことから逃げ、彼女と依存関係になっていたのは、高校一年の秋のこと。
僕は、思慮深く、彼女のことを想っていた。
「ねえ、ねえ」
午前の授業を終えて、昼休み。彼女が、猫撫で声で僕を呼んだ。
「今日、誰も来ないね」
「んー……春だからじゃないかな」
僕は彼女の言葉に、適当な根拠で返事をした。春になり、僕らは二年生になった。しかし、新しい科目、授業が始まったばかりだというのに、クラスには僕ら二人しかいない。
彼女がコッペパンの袋を、綺麗に開ける。
「午後の授業なんだっけ?」
「数学Bだった気がする」
僕は、昆布の入ったお握りを食べ終えたばっかだ。
「ああ、数学。ん、でもそっちじゃない方の数学だった気もする」
聞いてきた彼女が、そう言った。
「でもどのみち、先生はアイツだよ」
小言の多い数学の先生だ。名前はまだ覚えていない。
「私、あの先生前から知ってたけど、やっぱり嫌いだな」
「教え方はうまいけどね」
「でも、きらーい」
文句を言う彼女が、小さな口でコッペパンに齧りついた。小ぶりの唇が次に閉じて、動く。
それを見た僕は、欲のままに提案をした。
「……数学、さぼっちゃおうかな」
「ん、じゃあ、私もさぼる。どこか行く?」
彼女の問いに、少しだけ考えるフリをして、答える。
「音楽室、行こうよ」
「音楽室?」
コッペパンを完食させようと、彼女が口の動きを早めた。
「あそこの鍵、壊れてるんだ」
「ええ、そうなの。でも、準備室に先生いない?」
「今日は午前中で帰るよ、あの先生」
コッペパンを食べ終えた彼女が、大きく飲み込む動きをする。
「楽しそう! 行きたい」
彼女なら、そう言うと、わかっていた。
計画通り、僕らは音楽室に入れた。
楽器が隅に追いやられ、壁には防音のために、小さな穴がたくさん空いていた。
「ねえ、見て見て、スミレの花畑がよく見えるよ」
彼女が窓際ではしゃいでいる。最上階にある音楽室からは、この町がよく見え、校庭の花畑も見える。
僕は、無言で後ろから彼女に抱きつき、キスをした。
スカートの中に手を伸ばし、白く、柔らかい脚を触る。
「……もう、こういうことがしたくて音楽室きたの?」
唇を離した彼女が、少し怒りながら言った。
「別にいいけど。それなら空き教室でも、家でも良かったじゃない」
「ごめんね。すぐしたかったから」
僕はそう言いながら、行為を続ける。彼女が、小さく声を出す。
彼女のことを、僕は思慮深く、想っている。だから、音楽室を選んだ。
喘ぐ彼女の声を、誰にも聞かせないために。
nina_three_word.
〈 音楽室 〉
〈 過疎 〉
〈 菫 〉