〈二百年に渡る雪の厄災〉が終わって、一年。
世界が数百年ぶりに青空を見せてから、一週間。
人類の調査が始まってから、百九十三日目 。
「えーこちら、ニーシチ。ニーシチ。近辺が川だったと思われるエリアに入りました。新しい種子の採集が期待出来そうです。どうぞ」
調査隊員ニーシチは、まだ凍った地の上を滑らないように、この半年で生み出した独自の歩き方で進んでいた。
凍った川には小さな溝が出来て、ちょろちょろと水が流れている。
「周囲の壊滅状態はそれほど酷くないように思われます。陸と陸を繋げる橋らしきものが、そのまま形で残っていますね。どうぞ。……ええ、あれ壊すんですか。なんだか勿体無いですねえ。どうぞ」
ニーシチが橋の下を注意深く潜り抜けると、そこには開けた空間があった。雪と氷が溶け、柔らかくなった地面にニーシチが目を向けると、枯れた植物が横たわっているのを見つけた。
「植物を確認しました。種子も……ありますね。恐らく被子植物だと思われます。いや、それにしても多いですね。人工的に植えられたものなんでしょうか。あっ」
通信中のニーシチが、その枯れた植物の群生の中に何かを見つけた。
「あ、ああ、すみません。遺体でした。どうぞ」
男女の遺体が、枯れた植物に囲まれて横たわっている。
解凍されたばかりなのか、その顔はやけに、穏やかで綺麗なまま。
「一応報告します。男女の遺体です。学生服に身を包んでいることから、十代後半。何故か不可解なことに、抱き合ったまま横たわっています。どうぞ」
ニーシチからしてれみば、その遺体は不自然で不可解そのもだ。
何故、この川沿いで、学生服のまま抱き合って死んでいるのか。
「何かの儀式でしょうか。どうぞ。……えっ、僕の解釈を聞きたい、ですか? どうぞ。……何故笑ってるんですかあ。どうぞお」
通信先の上司に何故笑われているのか、ニーシチには理解できなかった。
「僕の解釈……ですか。そうですね。寒さに耐えるように、お互いの体温を共有したように見えます。が、それだと、この穏やかな表情の説明がつきません。なんなのでしょう、見ていると不安になってきます。どうぞ」
不安。そう思うのはニーシチ自身に沸く、感情からだった。
羨ましい、に近い何か。
「え、今の解釈は半分合格なんですか。意味がわかりません。どうぞ」
ニーシチは横目にその遺体を見て、立ち上がる。
「はあ、そうですか。引き続き調査を続けます。どうぞ」
溶けていく世界の中、不可解な男女の遺体を置いて、ニーシチは進んだ。
nina_three_word.
〈 解釈 〉
〈 解凍 〉
〈 不可解 〉