私が可愛く鳴けば、仕方がないと言わんばかりの顔をして餌をくれる、甘い甘い貴方のことがとても、好きでした。
私が〈育て屋〉に預けられたのがもう、七年前のことになるのね。
窮屈で、とても女臭くて辛気臭い場所だったわ。過半数の女の子たちが〈女〉として売られる未来を受け入れずに、ずっと愚図ってた。
悪態が絶えない子。隅っこで膝を抱えて泣いてる子。虚ろな目で天井を見上げている子。みんな不幸そう。
私は、私はそうでもなかった。
少しだけ底意地が悪い女の子だったから、他人の不幸そうな姿を見るのが楽しかった。少しだけ頭が悪い女の子だったから。先の未来なんて漠然として不安にはならなかった。
それに、少しだけマセた女の子だったから、恋をしてた。
無精髭が生えた、管理人のお兄さん。この屋根の下の、唯一の男の人。
みんな、お兄さんを悪魔のように怖がっていた。まあ、不幸の原因だものね。仕方がないのかもしれない。だけどお兄さんだって仕事でしてるのであって、売り飛ばすことが趣味ってわけじゃないの。
何より、私たちのような雛鳥を生かしてくれていた親鳥だったのに、みんな恩知らずも良いとこよ。
餌の時間になるたびに、私は尻尾を振るようにお兄さんに話しかけた。
お兄さんは仕事柄に合わず、無愛想だけど、とても優しい人だった。それに生真面目。私たちの管理を怠ることなんて一度もなかったもの。そんなとこも好きだった。
何より私が好きだったのは、先の不幸を嘆く女の子たちの目とは違う、全てに絶望したような、深くて暗い淀んだ目。話してるとき、目線はこっちを向いていても多分、私のことは見ていなかった。
何を見ていたのかしら。もう知りようがないけど、きっと何も見てなかったと思う。
その目には、何も映っていなかったから。
日々、お兄さんに恋をして、拗らせて、私、乙女だった。
だからこそ、嫉妬心が生まれる。焦りが生まれてしまう。
他に餌を貰う女の子たちにも。次々と追加される新しい女の子たちにも。私は嫉妬して、焦っていた。
淀んだ目に光を灯す女の子が現れることを、酷く恐れていたの。
絶対に私だけのモノにしたくて、お兄さんに親身になった。辛くない? たまには甘えることも必要よ。私がなんでも聞いてあげる。
なにか悩んでることはない?
そんな、母のように甘やかし続けていた中で、お兄さんの口から淀んだ願望吐き出された。
希死念慮。
私はとても哀しくなった。だって、お兄さんが幸せになるのも、私がお兄さんを独り占めにするのも、死を後押しするしかないんだもの。
だから、私は餌の恩返しのつもりで、お兄さんを甘やかしてあげたわ。
「そうね、貴方は、死ぬべきなのかもしれない。ううん、死ぬしかないの。だって貴方が生きていても、何も、永遠に咲くことはないから。大丈夫、私が見ててあげるから、ね。大丈夫よ。安心して」
私の言葉を聞いた夕方、お兄さんは私たちの牢の鍵を開けて、首を吊って自殺した。
そのときになって初めて、好きな人を抱きしめれたの。
nina_three_word.
〈 雛鳥 〉
〈 追加 〉
〈 後押し 〉