「ここは、僕たちだけの秘密だよ」
貴方はそう言って、私に飴玉を渡した。
子供ながらに〈秘密〉という言葉がとても魅力的で、私は嬉しくなった。
雑木林の奥に見つけた誰も知らない秘密の丘。それが貴方と私の、一番最初の共有。
小学校三年生になって同じクラスになった私たちは、秘密の丘で遊ぶうちに、たくさんの思い出と秘密を共有していった。それが貴方と私のコミニケーションで、それが当たり前だった。
「三組の先生、カツラらしいよ。これ内緒ね」
そう言って貴方が私に渡したのは、鈴カステラ。
「見えちゃったから、カンニングしちゃった」
べっこう飴。
「僕のお母さんね、毎晩、いろんなお父さんを連れて帰ってくるんだ」
こんぺいとう。
貴方は必ず、口止め料を私に払っていた。
中学に上がって、貴方と私は離れ離れになってしまった。けど、それでも月に一回は、会っていたよね。いつの間にか私より背が高くなって、言葉は前からじゃなくて、上からになっていた。
背が変わっても、貴方は私に秘密を、懺悔するように話してくれた。
誰にも話さないでね。って、甘い口止め料を、私に払ってくれた。
私は黙って話を聞いて、頷いて、大丈夫だよ誰にも言わないよ。という言葉を吐く。誰よりも素直で心配性な貴方は、私のその一言に、酷く安心してくれる。
それが何よりも野良猫よりも、可愛らしかった。
高校生になって、私たちは再び同じ校舎で、学べるようになった。
貴方は変わらず私にだけ、秘密を話してくれる。
だけど貴方は、悪い友達が出来てから少し、秘密が乱暴になった。そんなことしてどうするの。って心配になったけど、歯止めが効かず何でもかんでも話してくれる貴方がやっぱり可愛くて、私は止めなかった。
止めれなかった。むしろ、秘密はどんどん作るべきだと思っていたの。それが例え、悪いことでも。ああ、悪い友達は、私もだね。
それこそ貴方の秘密は、懺悔そのもになっていた。
相も変わらず甘い口止め料と一緒に、懺悔して。私は舌で甘味を転がして、貴方の頭を優しく撫でた。大丈夫、大丈夫だよ。って。
堕ちていく貴方への不安と、私だけという、愉悦感。
歯止めがもう効かなくなっていたのは、私も一緒。
だから、貴方が私を部屋に呼んでくれたときも、変わらず嬉しかった。
転がる女の死体と、膝を抱え泣きじゃくる貴方。
「なあ、誰にも言わずに、俺を助けてくれよ」
消え入るような声で貴方が言った。
もちろん。誰にも言わないし、助けてあげる。
だから、飛びっきりの甘い砂糖菓子を、私に頂戴。
nina_three_word.
〈 口止め料 〉
〈 砂糖菓子 〉