kurayami.

暗黒という闇の淵から

いずれアイリスか雪落とし

 私の中で芽生え、歪み、枯れることのない、常花なこの……密かな想い。

 貴方にとっての〈理解ある女友達〉を演じて、もう四年になります。私が〈高校の部活の後輩〉という、不利な立ち位置から始まったにしては、よくやった方ではないでしょうか。
 貴方の恋路を応援する〈恋愛相談役〉だなんて、したくもないものまでしましたね。意中の人の反応に対して、一々喜んだり落ち込んだり、私に「どうしよう」と頼り甘える様はとても、可愛い生き物でした。ですが、同時にそこには、フローリングを蠢く害虫のような、汚らわしさも共存していたのものです。ああ、しかし、その恋が実ってしまったからこそ、実ったからこそ。私は〈女友達〉という、安全で最悪な、貴方に近い枠組みにいれるのですね。そう思うと、少し涙が出てきます。
 そんな〈恋愛相談役〉から〈理解〉ある〈女友達〉に昇格出来たのは、あの夜、貴方を拒まなかったからでしょう。ああ、貴方は本当に最低です。私が後輩だから、甘やかすから、許すとでも思ったのでしょうか。……本当は許されないことなのですが、仕方なかったのです。私だから許すんですよ、だなんて、私の喘ぎ声混じりに聞いたのを貴方は覚えていますか。きっと、覚えていないですよね。
 でも、あの夜以来、私は呼ばれる回数が多くなりました。貴方に会える回数が増えました。
 愚かなことに、それがとても嬉しくて、純粋な想いは歪んで、もう二度と枯れることはなさそうです。
 貴方の恋路を応援したのも、貴方の性処理に付き合うのも、貴方を想わないで寝なかった夜が無いのも、貴方を追って同じ大学に入ったのも……全ては密かな想いがあったから。
 けれど、貴方はもちろん、この想いを知らない。
 私が貴方に、伝えなかったのは〈理解ある女友達〉だから。
 それに、とても億劫だったから。
 こんな非情な今を作り上げたのは、最低な貴方と億劫な私。
 もう、終わらせたいです。億劫な私が終わらせましょう。叶わない不幸と、伝えないことで不幸、二つを比べてしまったら終わらせたくなってしまいました。
 〈理解ある女友達〉という枠組みから外れて、このアヤメの花束と想いを持って、今日貴方に伝えようと思います。アヤメの花言葉を知っていますか? 『メッセージ』と『希望』らしいですよ。私と貴方に似合うでしょうか。ふしだらで淫らな夜を過ごしてきた私たちに、希望なんてあるのでしょうか。
 まあ、希望なんて貴方には必要ないですね。もちろん、億劫だった私にも。
 待っていてください。今晩、裸の貴方の上で、この密かな想いを明かしますから。

 私は貴方を、殺めたい。
 

 

 

 


nina_three_word.

〈 密か 〉
〈 億劫 〉
〈 あやめ 〉