赤い糸、と呼ばれるものがある。
それは運命の糸だなんて言われるけど、私はそうじゃないと思う。だって、赤い糸はきっと、血管の比喩。熱くて、命を流して、脈を打つ。
そう、赤い糸は繋がる……じゃなくて、結ばれる。
だって、例えどんなに愛し合って繋がったとしても、お互いの血と愛が流れてぶつかって、パンクしちゃうでしょ。それって、失恋よりも残酷。
だから、結ぶんだ。それで、どうせ結ぶなら、固く。
離れないように、何処にもいかないように、解けないように、固く固く結ぶ。
例え、血管が痛いと悲鳴をあげても。貴方が、顔を歪ませ嘆いても。
パンクするよりはいいと思う。愛のために、血を滴らせて流すなんて素敵じゃない。底に出来た二人の血溜まりは、生温い思い出なんかよりも価値があるはずだから。好きなだけ嘆いていれば良かったんだ。
私には、赤い糸なんて見えない。
だけど、結ぶのは誰よりも得意だった。
解くのだって、同じぐらい。
欲しい男がいたら、うまい具合に手繰り寄せて結んで。飽きたら解いてあげていた。
赤い糸を運命と呼ぶのは、逃れられない快楽からの、支配的錯覚。
運命だと思わないと狂っちゃうんだろうね。可愛い生き物。それに比べ、自覚し利用していた私は、とても醜い。
ある日、異様なまでに欲しい貴方が現れた。
時間をかけて、好きになっていた。これが本当の恋なんだと、目眩がした。
花が好きだからと言うその趣向も、その寝惚けた眼差しも、少し赤い耳も、これから先の貴方の未来も、どうしても欲しかった。
だから、私は強く強く、何重にも、固結びをした。手離さないように。
最初の内は、貴方喜んでいたよね。私に血が流れるほどに熱く愛されて。共依存に陥って抜け出せないという毒を、笑顔で啜っていたよね。
なのに、貴方は時が経って、愛が痛いだなんて嘆き始めた。
心の内は、その愛が無いと生きていけないくせに。私無しには生きれなくなっていたくせに。
固結びに自信のあった私は、特に焦りはしなかった。優しく宥めて、毒を注ぎ続けた。
いつまでも一緒。そう毒に侵されていたのは、私だったね。
気付けば、貴方はいなくなっていた。
とても寒い夜、柔らかく結ばれた縄に、首を通して。
馬鹿な人。だけど、私はそれ以上に馬鹿だ。
いつまでも一緒にいれる、そんな私の自信が、何処までも私を哀しませ、狂わせた。貴方の未来も、耳も手も、趣向も、もう何処にも残されてないのだから。
きっと、私の元にあるのは、この痛々しい、結び目だけ。
運命だって受け入れられるような可愛さが、私にも欲しかった。
nina_theree_word.
〈 固結び 〉
〈 嘆く 〉