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kurayami.

暗黒という闇の淵から

ハラカラ

 僕には同じ腹から産まれた、三つ上の姉がいる。

 

 姉はいつも優しく、知的だ。似たとこがあるとするなら、部屋の片付けができないことや、かたいラーメンが食べれない、あとは、全体的な顔のパーツなど。
 姉の部屋は、親から譲ってもらった木造の家具と、たくさんの本が詰まった本棚が置いてある。羨ましいとは思わなかったけど、その代わり姉の部屋によく、勉強や読書をしに行く。姉は僕を追い出さない代わりに、学校での愚痴や、面白い本の紹介などを僕にする。姉の部屋に行くのは、半ば話聞きたさに通っている面もあった。
 僕が高校に入学し、姉が大学に入学して、三ヶ月経った頃のこと。
 いつものように、姉の部屋で勉強をしていたときのことだ。姉がなにか、音を立てて食べていた。
「なに、食べてるの?」
「みんな大好きサクマドロップ」
 姉は、飴をほとんど舐めずに、噛み砕く。
「姉ちゃん、サクマドロップは舐めるものだよ……」
「んーいいの、なんか、噛みたいから」
 学校で、同じクラスの松田くんが「噛むのってなんかえろいよな」って言ってたのを思い出して、複雑な気持ちになる。
 姉が飴を噛んでいるのは、すごく遠くにいきそうな予兆に、思えた。
「ねえ、あんた友達はできたの?」
 携帯を見ながら、姉が聞いてきた。
「できたよ、クラスにも馴染めてるよ」
 姉は「そっか、ならちゃんと大事にしなね」と、僕のほう見ないで、返した。
 二週間後、いつものように部屋に入ると、顔を青白くした姉がいた。
 首を吊った、青白い顔の姉が、宙にいた。
 舌を出し、少し目を開けている。一瞬、同じ腹から産まれたとは思えないほど、その歪で綺麗な顔に見惚れ、数秒遅れて叫んだ。
 姉の遺書には『大学に馴染めない、勉強もなにもわからない。もうなにもわからない、なにも』とだけ、書いてあって、僕のことにはなに触れていなかった。それを寂しいとは、思わなかった。それを満たすほどのものを、姉は見せて消えた。
 しばらく経って、僕自ら、姉の部屋に移りたいと願いでた。親たちは反対しなかった、きっと空っぽの部屋に対して、虚な感情を抱いていたのかもしれない。姉の部屋……いや、僕の部屋は、まだ少し、姉の気配がした。
 姉が宙にいた辺りを見て、姉の青白い死に顔を思い出す。
 ああ、綺麗だった……憧れた。
 部屋の隅、姉が使っていた鏡の中で、自らの顔を触る。
 舌を出してみても、あの姉には遠く、及ばない。
 次に自らの首を、両手で締める。苦しく、顔が破裂しそうな感覚、その中で、鏡を見たとき、あのときの姉と、やっと重なった。
 ああ、やっとだった。足りないけど、もう少し死に近づければ、姉と同じになれるんだ。
 僕を、姉にしてくれる人が必要だ。
 僕を殺し、死に顔を見てくれる、大切な人が。

 

 僕には、同じ同胞の、美しい死に顔をした姉が、いた。

 

妖怪三題噺「飴」「同胞」「白」

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