kurayami.

暗黒という闇の淵から

うつろ劇場

 私の住んでる町は、古い再開発の計画によって、たくさんの廃墟が出来ていた。
 再開発の話なんて、忘れられているんじゃないかって思うぐらい、町は放置され、住民はどんどん離れていく。
 町は、時間が止まったみたいに、静かだ。
 高校の授業を終えて、同級生たちと駅まで一緒帰って、一人、別方向の、あの町に帰る。既に壊されている廃墟もあって、町の外側は、手付かずの野原が広がっている。まるで、陸の孤島だ。
 予定もなく、真っ直ぐ帰っても良かったんだけど、天気と気分で、お気に入りの廃墟へ行くことにした。
 児童館の脇の、小道を行った先、くねくね曲がった坂道を下って、野原になった廃墟跡地の中にある、目的の建物への、秘密の抜け穴、
 そこは、誰も来ない私だけの廃墟劇場。
 裏口から入り込み、廊下を抜けて、赤い客席へ。相変わらず、すごい埃だった。舞台を見上げると、天窓から光が漏れている。
 舞台に上がり、客席へ、振り返る。うっすら、見える客席に向かって、私は深呼吸をし、一礼をする。
 今からこの舞台は、私の舞台になる。
 魅せる広い空間、向かれた予約満席の空の席、暖かい光が、私だけを輝かせる。
 舞台の上で、魅せるように、自由に、私は踊り始めた。
 喜ぶように。
 怒るように。
 哀しいように。
 楽しそうに。
 私には、感情が、あるんだ。踊り狂う、ざまあみろ、と私は魅せた。
 踊り飽きた私は袖を捲り、腕を客席に伸ばし、カーディガンのポッケから取り出したペーパーナイフを、手首にあてる。
 バイオリン奏者のように、手首の上でペーパーナイフを動かした。静かな劇場に、私にだけ聴こえるメロディを奏でる。
 私には、私には、自我があるんだ。私には感覚があるんだ。私の、私の表情を見て欲しい。
 そして、私は歌う。感情も、自我も、記憶も、全部全部、私にはあるんだ、と叫び、歌い、日が暮れる頃、私はぼろぼろ泣きながら、崩れ落ちる。
 誰も、私を見てくれない。

 

妖怪三題噺「人 物 場所」

僕なら「女子高生 ペーパーナイフ 劇場」

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