kurayami.

暗黒という闇の淵から

上映期間


 眩い証明が落とされ、開幕を合図するブザーと共に、真紅のカーテンが開かれた。
 無言の拍手。
 メトロノームが、動き出す。

 舞台の上、下町の病院の中、一人の男の子が産まれた。男の子の親は、初めての子供をとても喜んだ。
 男の子は、とても、利口な性格の子供だった。我儘を言うことなく、親の言うことを聞いていた。その一方で、溜まる黒い思考の捌け口を知ってて、動物を対象に晴らしていた。
 小学校に通うようになり、男の子は、少年となる。利口さに加え、男でありながら女のような可愛さが際立つようになった。その風貌から、周囲に愛され、初恋を奪うような存在へとなった。
 様々な告白を断る中で、少年のなかに、後ろめたさが生まれた。その後ろめたさが故、少年は告白してきた者と、嘘で付き合うようになる。
 その後ろめたさが、少年の心を変えていく。
 高学年に上がり、少年に一人の男友達が出来た。名前を、下田と言う。下田は内気な少年を引っ張るような人だった。少年は、下田といるときは、後ろめたさもなく、気持ちを晴らすことができた。
 中学校に上がり、少年は目を悪くし、親から眼鏡を買ってもらった。その鋭いフレームから、周囲に賢さの印象を与えるようになる。また、捌け口の対象を動物から、人へと移した。
 人を誘導し、簡単な不幸へと陥れる。それは些細な捌け口。
 別の中学校へと上がった下田の代わりに、少年にまた男友達が出来た。牛沢という友達だ。牛沢は少年に様々なことを教え、また自身の恋について少年に相談をしていた。少年自身、恋というものがわかならなくて、牛沢と一緒に恋を考える時間が多かった。
 中学に上がっても、相変わらず、愛され、付き合いの手を差し伸べられ、少年は嘘で付き合っていた。利口な少年は、牛沢と考えた恋というものを教本に、付き合いが上手くなっていき、他人の愛に栄養を注ぎ続けた。
 高校へと入学し、少年は青年へとなった。可愛さというものが抜け、青年は艶っぽさが増し、より、青年を望む人が増えた。
 青年の捌け口は、人から、手を差し伸べる人へと変わった。
 青年はこの高校在学中。様々な人と寝、不幸へと陥れた。それが青年にとっての救いで、娯楽だ。その一方で、青年は人からの頼み、要求は断れず、多くの傷を負った。
 同じ高校に入った牛沢が、しばらく青年の具合を心配していたが、三年生となり、恋人を青年に取られたことで激怒し、青年の側から離れていった。
 一人となり、相変わらず荒い付き合いをしていたときのこと。青年はそのとき付き合っていた女子生徒の、その男友達、大友と出会う。
 大友は、青年を引っ張りもせず、かと言って鑑賞することなく、青年と接し続けた。その距離感が、青年にとってちょうど良かった。嘘の相手でもなく、友達としてでもない。友人、と呼ぶのが相応しい相手だった。
 高校を卒業する手前、青年は大友の家に遊びに行った。そのときのことだ、青年は、大友の姉……神奈に出会った。

 メトロノームの刻む音が、早くなる。
 劇場に響くブザー音。

 高校を卒業し、大学に行った青年は、程なくして、逃げるように大学を辞めた。隔てなく付き合いを迫る人が、嫌になったからだ。
 その嫌という感情には、神奈の顔が過る。
 青年は家を出て、身体を売りに隣街へと出た。自身の艶っぽさを売りに、青年はすぐに売れ始める。
 しばらくして、青年は街で下田に出会った。お金に困っている、助けてくれと懇願する下田を見て、小学校時代の頃を思い出し、情の湧いた青年は、下田を助けるため、連帯保証人の役を引き受けた。
 数ヶ月後、下田の姿が消えた。すぐに、回収役が青年の店へ訪れた。
 痛みというものに慣れていた青年を面白くないと思った回収役たちは、一つ仕事の提案をした。
 写真の男を轢き殺せという。青年は、その仕事を引き受けるしかなかった。
 当日、トラックに乗り込んだ青年は、慣れない運転で、その写真の男が歩くという道に向かった。そこは、青年が暮らしていた街だった。何か嫌な予感がした青年は、慎重にトラックを走らせる。
 写真の男が、いた。青年はアクセルを踏み、道にハンドルを切る。
 一瞬、よく知ってる顔が、写真の男を突き飛ばした。
 鈍い音と、衝撃。
 大友の姿を見て、ハンドルを無理に切った青年のトラックが道に横転した。

 メトロノームが、緩やかになる。

 刑務所の中で、十年。青年は、男へとなった。
 長い虚無感の中で、ただただ、神奈の顔だけが離れなかった。
 出所し、男は家に帰るも、そこには両親の姿はなかった。
 そしてすぐ、病気を発症した。男は、それを治す気にもなれず、ただただ、悪化していき、最期、神奈に想いを告げたかったと後悔し、息を引き取った。

 

 鳴り止まないメトロノーム
 幕は、開いたままだった。
 この物語は、彼を覚えている人がいる限り、終わることがない。
 それに、すぐにでも、舞台に人が立つだろう。

 

 

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