「なに頼むの?」
男の子と女の子が、カフェのカウンターで可愛らしくメニューを見ている。
「私、私はねえ……ホットチョコレートもいいな。けど、ホットミルクにする」
「ええ、せっかくカフェきたのに? コーヒーとかにしないの?」
「だって、今日はそういう運命なんだから、仕方がないじゃない」
女の子は「君にはわからないわ」と横顔を男の子に見せる。
「ふうん。あ、ねえ。靴紐解けてるよ」
男の子が、女の子の足元を指差して言った。
「大丈夫よ。座ってから結ぶから」
女の子はホットミルクを受け取りながらそう言って、一歩を踏み出す。
靴紐が解けていたそのもう一歩が、靴紐に足を捕らえられて、バランスを崩した。傾く女の子の手から、ホットミルクが離れていく。
器から、暖かく真っ白なものが溢れ、宙を舞った。
真っ白の正反対、真っ暗の中。そこには煌めく無数の可能性の希望と、黒く目に見えない絶望への駆け足が、重力に束縛され、巨大な渦を巻いている。
例えば、ほら、その青と緑の惑星の中。
一人の男の子が絵描きになることを夢見て、絵を描いている。
一人の男が、限界を感じ自身の絵画を破っている。
二人の高校生が、愛を歌って未来を見ている。
残された一人の女が、縋る過去に限界を見て消えようとしている。
始まりがあって、終わりがある。それは銀河の束縛。
もっと言えば、ほら、その橙色の惑星の中。
物語が始まれば、いつか完結する。
文明は創造と滅びを繰り返し。
生あるモノには、死が訪れる。
残されたモノには記憶が残り、やがてそれは消え、新しいモノを受け入れる。それは銀河の渦。
言ってしまえば、その、記憶する恒星の中。
思春期の記憶が揺らぎ、大人の記憶を受け入れるモノ。
死んだ飼い主を忘れ、新しい飼い主を受け入れるモノ。
自身を忘れ、新しい自身へと生まれ変わるモノ。
希望と絶望が周りを飾り、始まりと終わりが端にあって、くるくる回る記憶が、渦を巻く。全ては重力によって回され、束縛し、その運命から逃れることはできない。
しかし、突然起きた最初で最後の衝動が、全てをバラバラにした。
絶望は輝き出し、希望は毒入りの蜜へとなった。
始まりは永遠となり、終わりは永久となった。
渦巻く記憶はミルクティーみたいに全部混ざって、頭を溶かす。
絡まっていた巨大な天体は、靴紐みたいに解けて、バラバラに飛び散っていく。
幸せは不幸へ。不幸は幸せへ。
ホットミルクは、床へと落ちた。静かに一面へと広がる、真っ白は、まだ暖かさを残している。
一つの銀河の終焉と、女の子の泣き顔。
nina_three_word.
〈銀河〉〈靴紐〉