kurayami.

暗黒という闇の淵から

2017-02-01から1ヶ月間の記事一覧

坂道の街

私の住むこの街は、山の麓にあるということもあって、坂道がこの街のシンボルとでも言えるんじゃないかというぐらい、多かった。 だから、この街の住人は、帰るのに坂を登る人と、帰るのに坂を下る人に分かれる。 私は前者、帰り道は登る人だ。 今日最後の授…

奈落のニルヴァーナ

広く静かな黒い水面に、主を無くした小さな船が漂っている。低い空には幾つもの世界が、継ぎ接ぎに写し出されていた。 ここは奈落。世界の舞台下。 第始界。そこは手紙世界の奈落。父を憎む物語。連続する不幸の中で異形と化し、海を彷徨う様が写し出されて…

甘党と化け物

由奈と出会ったのは、緑道を飾る、木の葉が落ち切った十二月のことだった。 バイト先だったカフェの、別店舗のヘルプに行ったときに知り合った。由奈はまだ入ったばかりで、忙しく教える人がいない中、別店舗の俺が仕事を教えていくうちに、仲良くなったんだ…

十二年前の罪

「もう、あれから十二年も、経つのね」「ん……そうだね。この日を忘れたことなんてなかったけど、そっか、もう十二年も経つんだ」 僕ら佐伯家は、元々六人家族だった。 陽気でいつも踊ってるような母さん。いつもへの字に口を曲げた父さん。その父さんの方の…

モノクロシティ

温度のない風が、私の黒い制服のスカートを揺らした。 色のない建物。モノクロの空、その空の淵に、冷めた一等星の星雲が囲んでいる。 三日月街。 この町に来たのは、私の意思じゃなかった。逃がされたのだ。どこかの、お人好しに。「このままだと殺されてし…

セピア色の街

空中浮遊するビル。セピア色の空。街の付け根に曼珠沙華。 少年の片手に、一匹の海水魚。 青見実奈が、高校帰りの放課後、喫茶店で優雅にソーダフロートの上のアイスを口に運んでいるときのことだった。少年が、ダツ目ダツ上科サンマ科の、秋刀魚の尾を片手…