kurayami.

暗黒という闇の淵から

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異常性

ねえ、君は私のことが好きでしょう? あらあら、隠さなくて良いのよ。私が近所に引っ越して四年、君が恋心に自覚して二年……ってとこかしら。ふふ、大人だから、わかるのよ。でも、なんでわかると思う? ……そういうところよ、君は無意識のうちに、私に尻尾を…

ネクストゲームヒーロー

やあ、君はこの世界が好きかい? 昼と夜が好きかな。家族は、友人は、好きな子は? なに、照れなくて良い。教えてくれ、君は明日が楽しみだろうか。寝れば明日が来ると、喜んで布団に入れるだろうか。 ……そうか、そうか。良かった、安心したよ。君なら、これ…

鏡界線

その日数本の一両電車を降りて、林道を歩いて一時間。 少女の“私”が住む田舎街は、三つの大きな山に挟まれた麓にありました。 昼間は、狸も狐も暮らす山や、魚の群れが泳ぐ川と遊ぶ場所には困りません。ですが、日暮れに夕闇から逃げ遅れてしまえば二度と帰…

終世記

突如目の前に現れた東京には、一切の緑が無かった。 ついでに、俯いて歩いていた人々も、私の過去の記憶も。 そこに在るのは、吹き荒れる砂埃の黄色と、コンクリートの灰色と、私の黒いセーラー服だけだ。 不可解な現象に困ったという感情は、何故か無い。私…

射抜いたナイフ

その人体研究への熱意を、研究員の健康にも向けてくれと僕は溜息が出る。 何故なら、出来立ての研究所は冷房管理が整ってもいなく、新品の厚手の白衣が僕を蒸していたからだ。 一ヶ月前に戦争が始まってすぐに、アジア政府は現医者のアヤツジ博士を筆頭に博…

グランジという名の男

煙草の灰と薬物のパッケージに塗れた街に、今日も朝陽が登り売人とホームレスたちの路地裏に影を落とす。 薄汚い街は一つの〈つまらない最高な話題〉で持ちきりだった。「おい、聞いたか。あのグランジが死んだらしいぞ」 “グランジ”。その一人きりの男の名…

夜の王

この夜の暗闇が濃くなるほど、僕は追い詰められる。 二十三時を過ぎると眠りに就く家族。零時を過ぎる頃には、ソーシャルネットワークの愛しい住人たちが徐々に姿を消していく。 深夜。このだだっ広い世界、人が消えた街、狭い明りの中で、僕ら夜行性生物は…

犯人にとっての聖書

ええ、ええ。反省ですか。反省なんてしてません、しませんよ。 私は〈教え〉に従ったまで、ですから。 一人目は父の友人だった男です。ええ、母と父が死んでからというもの、妹と二人きりになってしまった私に親切にしてくれていました。もちろん、下心有り…

誤用歩行

深く濃い藍色の天井に、水色と白の絨毯。肌寒い空調は僕の肌を若干凍らせて、漏れる息は冬のように具現化する。 ここは上空、一万メートル。 あと少し、もう少しで、最後のお呪いが消えてしまう。 だから、僕は歩くことを目的に、この大好きな空の上を何処ま…

霞んだ視界世界

彼の家に帰るとき、わざと音を立てず、ただいまを言わずに帰る時がある。 意地悪なんかじゃない。私がいないときの彼の姿が見てみたくて、仕方が無く音を消してみてるだけ。 玄関の戸を静かにゆっくりと閉めて、忍び足で廊下を進み、彼がいるであろう寝室を…

数億年の街から消える恋

「ねえ、この時間だった気がするの」 夕暮れが終わろうとする夜の間際。街を分ける河川の橋の上。 女が橋の柵に寄りかかって、手を繋いだ先の男にそう言った。「この時間?」「私が、貴方の側に居れることを許された時。今みたいな夜の入り口」 遠い……三年も…

殺人鬼役

モノトーンでまとめられたシンプルな部屋に、赤の差し色が入る。 気付けば頭が割れた女は、壊れたロボットのようにふらふらと歩いて、壁に激突してから力尽きて倒れた。 僕の拳銃は片手の中で小さな煙を吐き出している。女の遺体なんかよりも、煙の方が「撃…

夏休み明けに生まれ変わる

蒸した体育館の終業式の中で、私は冷たい眼差しを全体で感じ取った。髪の隙間から視線の元を辿ると、隣のクラスの佐久間美波の姿が目に入る。 普段は大きくてくりくりしている目が、糸のように細くなって、音も無く私に眼差しを向けている。 その眼差しに私…

無き神と雨の内側

あの降り止まない〈悪夢の雨の厄災〉の日以来、僕はずっと長靴を履いている。 陽の温度や眩しさなんて忘れた頃に、もう飢えて死ぬだろうという頃になって、雨は止んだ。 降り始めてから、約一年後のこと。それが、一週間前のことだ。 傾いた団地の棟の最上階…

緑の温度

変化する温度があるからこそ一年も、恋も、夏も楽しい。 私は夏が好き。汗を流して登りきった坂で、偶然涼しい風が吹いて入道雲を見上げること。贅沢にデパートのクーラーで冷えた身体を、外の熱気を頼りに暖まってまだ汗を流すことも。 でも何より、木曜日…

ダンスフロア

今更過ぎる後悔に、日々思い返しては癖になってしまう。 人生で初めて行ったクラブで知り合った、歳上の女。気に入られ、朝まで踊り明かし、次の日の夕方過ぎまでホテルで過ごしたその日に、付き合い始めた。 その女は俺の初々しさを気に入ったと言うが、今…

小説は事実

大学の受験に落ちてしまった。一週間前のこと。 勉強は、人並みには頑張ったつもりだった。だから今回の結果の原因は運が悪かっただけだと思うし、とても悔しい思いをしている。 だからこそ、僕は恥ずかしげもなく入学の裏技を探していた。 しかし、出てくる…

大衆の興味と罰

「ご協力お願いしまーす」 渋谷駅ハチ公前に若い女性の声。通行人の大半が横目に通り過ぎていく中で、少人数が足を止めて小さな野次馬の群を作っている。「えーただいまですね、タバコのポイ捨て撲滅キャンペーンをしていまして、どうかポイ捨てに対する罪意…

ティアレイン

午後昼過ぎの暗雲の下で、私の小刻みな足音が小さくタンタンと、響いている。 何処に向かってるかなんて目標はない。だけど、いつまでも走れる気がした。この町に嫌われている長い坂だって、このままずっと登れる。 例え、デートのために整えた髪が乱れても…

駄目人間

終電過ぎの駅には、くたびれた人間しか存在しない。 それは駅前に設置された、小汚い喫煙所にも。取り残された奴、残ることを選んだ奴、これから家に帰る奴。疎らにしか立っていないこの喫煙所の人間は皆、平日の一日に殺されかけている。 例外なく、残業上…

泉の底

夜の曇り空に赤い光が反射して、夏の祭囃子が町に響いている。 そんな夏祭りから逃げるように、二人の少女が町の外れにある神社へと訪れた。 神社は、まるで賑やかな町から切り取られたかのように、冷たく静かな空間を保っている。「思ったより、人いないね…

雛鳥の初恋と終わりの後押し

私が可愛く鳴けば、仕方がないと言わんばかりの顔をして餌をくれる、甘い甘い貴方のことがとても、好きでした。 私が〈育て屋〉に預けられたのがもう、七年前のことになるのね。 窮屈で、とても女臭くて辛気臭い場所だったわ。過半数の女の子たちが〈女〉と…

終わってしまえばいいと呪うまで

大人の取り決めた枠から、生活を供給されている子供は逃れられない。 それが例え、子供たちの中に確固たる意思があったとしても。 「……なんで」 夏の夕暮れ。公園のブランコに座った男の子が、絞り出すような声を出した。 女の子は黙ってブランコを二往復漕…

エスシーエス

砂浜が僕の足を取って、踏み出す足が重かった。 振り返ると彼女が少し遠くてしゃがんでる。白いワンピース風の水着が、黒と藍の景色の中で主役になっていた。 この海岸には、僕らしかいない。 雨の日に海に行こうだなんて我儘を言う彼女がいて、夕方海に着く…

迷子の先は

参ったな。これは、どうしたことか。 さっきまで、さっきまで私は……ああ、そうだ。私は職員室で、明日の実験を含めた授業の準備を終えたばかりだった。 午後八時のことだ。ついでに、桐山に「その、浅川さん……すみません」なんて、反省した犬みたいな調子で…

不器用に先を

下の階から、家のインタホーンを鳴らす音がした。 私は反射的に少し湿った布団を頭に被る。嫌な予感がした。午後五時、学校終わりに人が立ち寄るような時間。 嫌だな、誰にも会いたくない。誰とも、話したくない。 布団にうつ伏せになって、耳を澄ました。母…

一人家焼肉

一人暮らしの男が、家で寂しく焼肉をしちゃいけないなんてルールはない。 むしろ一人だからこそ、家だからこその自由がそこにある。買う肉、焼く肉に文句を言うヤツもいない。焼くペースをいちいち気にする必要がない。焼きそばの気分になれば、突然嵐のよう…

/ワンデイ

ゆめ、夢見てた。 なん、だっけ。 みんな死んじゃったかも。 でも、私は幸せだった。 ん、まだ眠いや。 でも、お風呂入らないと。 仕事に遅刻しちゃう。 蝉が鳴いてる。今年初かも。 眼鏡が見当たらないよ。 あった。レンズ汚い。 私にお似合いね。 お母さん…

スイーツスイーツ

二人の少年が、一つの小さな世界を下方に挟み、対峙していた。 そのうちの一人は、市販の紙マスクで口を隠し、第一ボタンまできっちり閉めた白シャツを着て、上からゆったりめの黒いポンチョを羽織った〈パリパリの白チョコケーキ〉の少年。 もう一人は、恋…

夏の寝床と冬の迷子

扇風機だけが頼りの、蒸し暑い夏の夜。 枕元にある携帯のディスプレイが、ぼんやりと暗闇を明るくした。 一回、そして二回三回と、携帯がモールス信号のように振動する。 また、あの人だ。 もしかしたら別の人かもしれない。あの子かもしれない。だけど、こ…

シカバネテツバット

遠心力が俺に自信を付けてくれる。無力の零から、一人分の命を消せるぐらいには。 何故だか何時からか、俺は家族の教室の町の世間の世界の嫌われモノで、まるで拠り所がなかったんだ。ああ、それは別に良い、嘆く必要はない。自業自得だからだ。俺が容姿端麗…

初夏心中

「ねえ、どこに行こうね」 女子高生の女の子は、隣に座っている男子高校生の男の子に、明日の予定を聞いた。「どこ……どこにしようか。綺麗な、空が見える場所が良い」 男子高校生の男の子は、暗い顔で遠くを見るように、女の子の問いに答える。 二人が座って…

生きること、この世界のこと

突然の天気雨が、過疎化した町に降り注ぐ。私は思わず、だいぶ昔に閉店されたカフェの屋根を借りて、雨宿りをした。夏の熱気を暴力的に冷ますように、雨音が地を心地良く叩いてる。高校の帰り道、少し短い夏服のスカート。 今日は終業式間近だからって、少し…

海の日

海の日。それは、この酷く蒸し暑い七月にうんざりする者たちの、仕事に疲れた一部の社会人の、固定休日が合わない恋人たちの……救済処置的祝日だ。 私はこの全てに該当する。「今年は今まで一番暑い」だなんて年々よく聞くが、そんな文句も許されそうなほど、…

たくさんのハートを

「お前は本当に、怪しからん奴だな」 溜息をついた女が、写真を片手にそう言った。 書斎のような部屋に、机を挟んで女と男が座っていた。「何遍言ったらわかるんだ。無駄に散らかすな、と」 男にとっての常連の依頼主、女……カナシマが写真を机の上に放り投げ…

長机の中で再会

前々から気になってはいた。しかし、入る理由もなかった。 だから、こうして入るのは、同僚の悪ノリだとかそういう理由付けが無ければ、今後ずっとなかっただろう。 新宿、歌舞伎町、その奥。呑み会と水商売のキャッチの賑わいから離れ、静まり返ったラブホ…

フィクション

運が良いことに、私はとても幸せだ。 あの頃は何もなかった気がする。空っぽで何もなくて、ヘラヘラしてれば良いと思っていた。時間の空白への恐怖に麻痺し、目を背け、毒の中で怠惰に堕ちていることにすら気付かないまま。 思い返してみれば、とても恐ろし…

ティーレックスたち

最初に殺されたのは、三年生を担当していた現代国語の教師だった。 それが一昨日のこと。昨日は二年生担当世界史と、三年生担当情報Cの教師が殺された。評判の悪い教師ばっかだな。 まあ、この学校に評判の良い教師なんて、いないだろうけど。大人しめの僕…

嫉妬地獄

刑務所の面会室のような場所に、私は座っていた。 橙色の小さい蛍光灯頼りの暗い部屋。孤独を象徴するような事務的な椅子。あちら側とこちら側を遮断する、厚い厚い硝子窓。 そんな硝子窓の向こう側。ベッドの上で愛しの貴方が全裸になって、知らない女に食…

悪と惡

雨が二日三日と降り続き、恋人たちが口を開けて灰色の空を見上げていた、その日。仕事の疲れが取れず、恋人たちの骨が疲労に悲鳴をあげていた、その日。「あ、れ。ん、あれ」 雨の雫が滴る恋人の男が、家の冷蔵庫を開けて疑問の声を出した。 男の声を聞き、…

いずれアイリスか雪落とし

私の中で芽生え、歪み、枯れることのない、常花なこの……密かな想い。 貴方にとっての〈理解ある女友達〉を演じて、もう四年になります。私が〈高校の部活の後輩〉という、不利な立ち位置から始まったにしては、よくやった方ではないでしょうか。 貴方の恋路…

カフェのあの頃

小さな駅を降りて徒歩七分の場所に、俺のカフェは静かに佇んでいた。 錆びたシャッターを腰を降ろし、思いっきり引き上げる。引っかかるようなうるさい音と共に〈カフェ・シラキ〉と、赤色の文字でプリントされた硝子窓が俺の目の前に現れた。 シラキ。この…

ヒメウツギに保たれる

もう。また、貴方から匂ってる。「ええ、そんな臭いかなあ」 臭くないよ、いつも通り私の好きな匂いだよ。そう言って私は、貴方に抱きついて甘えた。 そうじゃない。ううん、そうじゃないの。そんなことを言ってるわけじゃない。貴方、最近私以外の女と会っ…

夢恋メンタルクリニックでワンペア

「ああ、聞いてください。私ずっと、頭が痛いんです」 女が主治医にそう訴えた。「ふむ。風邪というわけではなさそうですね。というと、やはり……以前仰っていた通り、仕事が辛いですか?」「……ええ、とても。仕事に行くことを考えるたびに、痛みは増していっ…

約束のメトロポリタン

「いらっしゃいませえ。あっ」 バーの扉を開くと、懐かしい顔のバーテンダーが僕を招き入れた。 木曜の夜ということもあってか、客は一人もいない。「盛り上がってますね」「まあな! お前みたいなのが来たらそりゃあ、盛り上がるわ!」 僕の冷やかしを余裕…

言い訳

この揺らぐだけの真っ暗闇の中に篭って、何日が経ったのだろう。 もう、贖罪の意識に覆われ何年が経ったのだろう。 鑑識官だった頃の記憶が、酷く遠く感じる。「おい! やっぱり中から音がしたぞ」 先輩は元気だろうか。強く生きているだろうか。 まあ俺にそ…

蓮のプリムラ

生気を掻き消した十畳の和室の中を、夏の日差しが縁側から伸びて、薄く照らしている。遠くから油蝉の鳴き声がして、目の前の仏壇から涼しげなリンの音が聞こえた。 優木江莉香が死んで、今日で三十五日目。 今日のお参りに、私ともう一人、女の子が来ていた…

「警察官」「電話」「教室」

「なあなあ。噂なんだけどさ」「台所の夕暮れ鯨の話でしょ」「違う違う。全く新しい話」「ふうん。都市伝説ってそんな、ぽんぽん生まれるものだったかな」「いいや、俺とお前が知らなかっただけだ。なんせ今回は、三つもある」「へえ、三つも。ああ、三つ、…

灯台までの泳ぎ方

人には大きく分けて、二種類の人間がいる。 この大海原という人生を、上手く泳げる人間と〈泳げない人間〉だ。 そして「人には大きく~」なんて上手く扱えないような例え方をする俺は、泳げない側の、人間だった。 ガキの頃からそうだった。何をしても失敗と…

体重

「へえ、結構綺麗な部屋じゃん」 少し酒に酔った彼女は、僕の部屋を見渡して言った。そんな彼女を見ながら、蛇口を捻りコップに水を注ぐ。僕も、酒に酔わされていたから。「駅から遠い分、しんどいし不便だけどね」「えーでも、駅からここまでいろんなお店が…