kurayami.

暗黒という闇の淵から

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延滞に身を任せて

夜になった十月の公園は、制服のスカートにはとても厳しくて、家に帰ったときに着替えれば良かったと酷く後悔した。でも寒いのがわかっていたからと言って、きっと私は帰ったときに冷静に着替えたりすることは出来なかったと思う。 告白はいつだって、余裕が…

夏の夢と冬の匂い

風呂を上がると冷たい冬の匂いがした。見れば僕の狭い四畳半の部屋に、薄い毛布にくるまって猫のように寝ている貴女がいて、窓が開いている。どうやら冬を招き入れたまま彼女は寝てしまったらしい。「風邪、ひくよ」 声をかけても、すぅすぅと気持ち良さそう…

コントラスト

いつの間にか夏が終わって雨が降り続き、もう冬なんじゃないかって思うような日のこと。 俺はずっと狙っていた女の子を、家にあげることに成功した。ああ、待ち望んでいた。初夏に初めて会った日からずっと。優しい狼のフリをするのも楽じゃないなって思った…

リ、ハネムーン

煮ていた牛丼の鍋の火を止めて耳を澄ませると、外から細かい雨粒の音が聞こえた。いや、そんなまさかと思ってベランダに出ると、洗濯物が干されている奥の景色で、細い水飛沫の線が降り注いでいる。天気予報じゃ夕方からだって聞いていたのに、裏切られた気…

色を求め続けた末の単色

欲しいと思ったモノは、手に入れたくなる。 学ランが不恰好だった頃から僕は頭の回りは良い方で、それはもう口が達者だった。何処へ行きたいだとか、こうなって欲しいだとか、会話の流れをうまいことやれば僕が望むように事が進む。それはもちろん、人間にだ…

儀式、運命の逃避行

星一つ見えない雲隠れした夜の下。小さな島の村には横笛の音色と、猫の面をつけた人々の念仏が、あぐらをかいた私の周りを渦巻いてた。 十七の誕生日を迎えた今日、私は人の身分を捨てて〈ノロ〉となる。 神から祝福された女子として。人知を超えた異の魂と…

思春期の夢魔

「君、ひとり?」 初々しい冷たい風が街に流れる午後の暮れ。高校帰りの少年がコンビニエンスストアの前で、シャーベットを食べようとした時のことだった。 少年に話しかけたのは、〈おねえさん〉と呼ぶのに相応しい風貌の女性。「ひとり、ですけど」「あら…

憂い学研究所

はい、今日から配属になりました。灰田唯良と申します。大学では〈苦悩〉について専攻していました。ですので、観測の際は僕を是非。え、恋人ですか? はは、いるわけないじゃないですか。あと十年間もこの地下から出れないのに、居ても……え、ああ、なるほど…

カレン汚染

可愛いことは、正しい。 まだ幼かった頃、母が私に言った言葉。きっと、女の子らしくなって欲しかったんだと思う。そんなこと言われなくても、私は可愛いモノは大好きだった。正しいと思っていた。 だって、可愛いは素敵だから。 夢見のパステルカラー。ふわ…

記憶の眠り

肉をかき混ぜるような波の音。陸が見えないほど遠い、黒い海の中でのこと。「あ、ねえ。宝箱見つけたかも」 遠くを指して言った少女姿の声に、近くにいた少年姿が反応する。「どこ」「ほら、あそこ。きっとすぐに、あ、一瞬見えた」「あー僕も見えたかも」 …

/弾丸

些細なキッカケだなんてことは、そこら中に転がっている。 いや、常に流動的に、有為的に。 時間は〈存在する全ての事象〉という銃を携帯して脅している。 始まりから果てまで、永遠に世界を乱し続けているんだ。 生まれた運命というモノを辿れば、原因の動…

神様のお気に入り

「あ、また余震か」 曇天の日中。田舎町の片隅。塀に手をついて身のバランスを取った二人の兄妹の内、兄がぼそっと呟く。余震というには少し長く、電気紐を揺らし続けた。「長かったね、お兄ちゃん」 兄の後ろでしがみ付いていた妹が、顔を覗かせる。「そう…

ライトエスケープ

陽がまだ高い日中のこと。私が街を歩いていると、十字路の真ん中に男が立っているのが目に入った。「やあ」 にこやかに甘く、悪気のない顔で嘘臭く笑うソレを、私は知っている。嫌悪感、警戒心、不幸の塊。触れるべきではない、堕落の象徴。 私はその男を避…

革ベルト

「お兄さん……? それ、どうするの」 安物の革ベルトで家具に拘束された少年が、心配と恐怖を交えた声を絞り出した。 目線の先には、錆びた鋸を手に持った二十代前半の男。「どうするって。鋸ってのは切り落とすために使うもんだよ」 よっこらせと少年の脇に…

世人柱

「順を追って説明しますね」「はい」 秋の入り口に立つ、夜の神社の中。 巫女装束のお姉さんの優しい声に、私は事務的な返事をした。「まず、貴女は私に殺される必要があります」「殺される、ですか」「あっ、殺す……というか、そのすみません。わかりやすい…

僕が知らない時間

今、僕が死のうとしてる話から、少し溢れるんだけどさ。 元々、貴方としていた「一年賞を取る」って約束が守れなかったからじゃん。実はアレ、締め切りそのものが守れてなかったんだよね。うん、えっとつまり、作品そのものを出せてなかったんだ。いや隠して…

本当の街

誰に何を誘われるわけでもないまま、俺は高校から家へと真っ直ぐ帰った。制服のネクタイを解き、中途半端にワイシャツのボタンを外して、ぐしゃぐしゃのベッドへと転がる。 外を見れば真っ青な空。まるで、まだ休むには早いぞとでも言ってるみたいで、罪悪感…

望み、残酷衝動

当たり前だと思っていたビジョンは、時間をかけて崩れていく。 これは二十四の私から、二十一の君への、初めての告白。聞いてくれるかな。 私が子供の頃に思い描いていた、想像の今現在。そこには何でも解決しちゃう旦那さんがいて、たくさんの可愛い猫を飼…

胎児回帰

「ひよめきが出来てますね」 医師は椅子をくるんと回転させて、向き合った女性……詩織に診断結果を告げた。「ひよめき、ですか?」「ええ、聞いたことないですよねえ」 意識が最近微睡む、頭のてっぺんが熱くて微かに頭痛。そんな症状に悩んで外科を訪れた詩…

精神と海岸の物語

重たい曇り空の下、人気のない海岸沿い、船屋前。鋭い岩肌に黒い波が当たって、ばらばらになって砕けた。 僕ら少年少女七人をここまで連れて来たのは、深い紅色のローブで顔を隠したお兄さん。 ローブのお兄さんは、船屋のおじさんに話している。「船を借り…

タイムブランチ

九月第五土曜日、昼頃。男がシャワーも食事も済ませて、気分に任せて何時でも出掛けられる、その日のこと。 男はテレビを見ていた。もう何年も前から、男が子供の頃からやっている土曜昼間のバラエティ番組。小さなテレビの枠の中で芸能人たちが、新築の値段…

ニオ

井の頭線の電車が、下北沢の手前で大きく揺れた。反動で乗客のニオいが持ち主から離れて、少し混ざる。 僕のパーカーに染み付いた、あの人の香水の匂いも。 シューズの裏にこびり付いた、土の臭いも。 マスクをしていても、それを防ぐことはできない。 僕の…

純白所有欲

薄暗くて、遠くが見えない。孤独な場所に私はいる。 昔はね、もっとたくさんの人がいたの。若い子から、お姉さんまで。みんな姿形が違って、心や容姿に可愛さや綺麗さ、かっこよさを持っていた。 売れ残った私とは、大違いで。 みんな、誰かに価値を認めれて…

タオヤメ

「益荒男であれよ」 それが俺の父親の口癖であって、母親が居ない我が家の教育方針だった。たぶん、俺に物心が付く前から言っている。生まれたばかりの赤ん坊に、呪詛のように愛と共に呟いてきたんだと思う。 父親の教育の努力があってか、兄は見事に、立派…

前衛恋愛

「これは私から、貴方という時代への挑戦」 曇り空の下、廃墟と化した暗い民家の中。荒れた元リビング。 誰かに届けたい声量で少女が呟いて、マッチに火を点けた。 柔らかく、まだ幼い少女の顔が、橙色に照らされる。「ううん。貴方への戦争は、実はずっとず…

寂しさを空かし続けて

孤独なの、ずっと。 前髪長くてお化けみたいだから、かしら。誰かから話しかけられるなんて、ずっと昔の記憶。そうよ、昔はもっと可愛らしい少女で、家族にもご近所さんにも、愛されて……ねえ? いつの間にこんな、前髪お化けになって。 二十三年も生きて、な…

制動装置破壊論

これは僕の憶測で人生の持論になるわけだが、人は前へ進み続かなければ死ぬ。 逆に言えば止まれば死ぬんだ。根拠という根拠は全くない。説得する面からの利点で言えば、ほら、踊り続けれたなら楽しいだろう? 永遠に恋人とセックスし続けれたら気持ち良いし…

時嫌われ

真夜中四時前の大須商店街に人の気配はない。眠る店の並びはシャッターが連なり、高いアーチ状の屋根には寂しい影が伸びていた。 そんな眠る商店街の静寂を破ったのは、ヒールが鳴らす踵の音。 カンカンと音に釣られるように、ペタペタとたどたどしいシュー…

デイゴースト

最近、何もないんだ。 話すことがまるで何もない。だから友人たちにも会おうと思えないし、そもそも人の充実した話を耳にしたくない。聞けば耳も心も腐りきってしまう。羨ましい。そんな日々、心を何かに動かされているだなんて。 しかし、俺に潤いがどんな…

ヨスガの星

あれに出会って私が逃げ延びれたのは、これが初めてかもしれない。 まあ、これが終わりなんだろうけど。 冷たい冷たい夜。本当だったら身震いして寒さに浸るはずなのに、今はもう震える力もない。身体が動かない。全身は傷だらけで、片足なんて繊維で繋がっ…