kurayami.

暗黒という闇の淵から

n3w

胃の中の余命

医師に余命四年を宣告されたとき、僕は「まだ結構あるな」と感じた。 長いようで、短いような。そんなことを考えながら、彼女との待ち合わせ場所に向かう。「死んだりしたら駄目だよ、約束だからね」そう、彼女が言っていた から重要なことだと思って、告げ…

Hの怒り/一人も残さない

燃え盛る炎の中で、男は愛する恋人を手に掛けていた。 男の拳は恋人の胸を抉り、中の内臓を引きずり出し黒く焼いている。嗅いだことのない臭いが、男の鼻についた。 男はその殺害を望んでいなかった。意思とは関係なしに暴走する身体。全ては奴らの仕業。「…

罰を産む

僕が二十五歳になったその日。朝一でソレは届いた。 〈歳を取ってから会話した人一号〉となった配達のお兄さんに、おはようございますと笑顔で挨拶し、受け取った赤いペンで書き慣れた姓をサインして荷物を受け取る。 ソレは、やけに小さな立方体の箱の形を…

狭い青空と黒いシルエット

この紅煉瓦の街では、よく雨が降る。 故に、傘を常備する住人が多かった。ああ、雨のことなんて知らずに訪れた旅人がよく、しかめっ面をしている。旅人の癖に情報不足なのが悪い。 住人たちは傘派と、折りたたみ傘派と大きく二つに別れる。その他の人たちは…

夢見の藍少年は紅色幻に醒まされる

朝の光が、白いカーテンを通して部屋を眩く染めている。 ベッドに小さく腰を掛け、血と、溜め息を吐いたのは、紅色が似合う“少女”姿。 対して、その足元に座り込み、めそめそと涙を流すのは、藍色が似合う少年。 世界はまるで、二人以外が眠っている夢みたい…

無骨な彼

「あの、あの、ちょっといいですか」 午後十時の街角。疲れ切った身体が無意識に癒しを求める時間。 私はたまたま通り掛かったスーツ姿のお兄さんの、その長い指が気になって引き止めた。 お兄さんは、警戒もせずに振り向く。「なんでしょう?」 優しそうで…

すりる

昼に付けっ放しの灯のような、何処か、間抜けなヤツ。 俺がアイツと初めて出会ったのは、高校二年生のクラス替えのとき。アイツ……津田沼優一の席は、竹中である俺の後ろの席だった。 俺が話好きで津田沼が聞き上手ということもあって、しょっちゅう後ろを向…

蔑ろにしないで

東京都世田谷区、古いマンションの最上階、空き部屋に挟まれたその部屋。 男が、最後の段ボールを片付けた。新居に積まれていた段ボールの小山は無くなり、男の私物と趣味に溢れた男の城が出来上がっている。 男はリビングに立ち、周りを見渡した。小物の配…

青空と風

「貴方と二人で旅がしたい。いや、しましょう」 僕の方を見ないで、彼女がそう言った。この見晴らしの良い、学校の屋上から。フェンスの外側で。 不気味な青空が、どこまでも広がっていた。敢えて今が何時だとかは言わないし、考えない。 ただ、空が青いだけ…

カムヒア

「おいで」 そう咄嗟に言ってしまったのは、きっと飼い猫たちに日常的に言っていたから、だと思う。 あの時の、私が呼んでしまったときの、貴方の顔を覚えている。 どうしたらいいかわからないのか、恥ずかしそうで、そしてなんだか、悔しそうだった。「なん…

夢見る者たちの外側

〈二百年に渡る雪の厄災〉が終わって、一年。 世界が数百年ぶりに青空を見せてから、一週間。 人類の調査が始まってから、百九十三日目 「えーこちら、ニーシチ。ニーシチ。近辺が川だったと思われるエリアに入りました。新しい種子の採集が期待出来そうです…

サナギ

夏の陽射しが、私に鋭く刺さって苦しめている。身体の外と内側から熱を放出して、貴重な水分を汗に変える。 そんな熱の悪魔が、私の目的を一瞬だけ掻き消して、十字路の真ん中で足が止まった。 私は、何処へ向かっているんだっけ。「お姉ちゃん、もしかして…

神性殺害失敗

唯一無二、僕だけの、最愛の恋人だ。 艶のある首までの黒い髪。鎖骨下の誘惑の黒子。黒とワンピースが良く似合う、その白い肌。ナチュラルメイクと浮いた紅色の唇。筋の通った高い鼻。堀の深い見透かしたような〈笑み〉が似合わない瞳。 そんな魔女のように…

季節外れの青春

まるで時間が、巻き戻ったかのようだった。枯れてセピア色になりかけていたものが、十三年ぶりに鮮明となって返り咲いて、今私の目の前に存在している。 ミルクティー色のカーディガンの袖に、手の甲が隠れた彼は、私の部屋で勉強をしていた。テストが近いと…

窓の中

確実に座れることを望んで僕は、夜の池袋駅丸ノ内線のホームに来ていた。 赤いラインの入った列車は既にホームに入っていて、中には疎らに人が座っている。 僕は時間潰しも兼ねて、一番奥の車両まで歩いた。列車は、動く気配が全くない。 辿り着いた奥の車両…

生解

「あの、もし良ければお話、大丈夫でしょうか」 早朝、空が白み始めた頃。 広い河原の土手に座り込んでいた俺は、若い男の声に振り返った。 そこに立っていたのは、古い学帽と学ランに身を包んだ学生風の男。顔は童顔で、身長は低かった。まるで男子中学生の…

白み始めた終

いつまで経っても、夢の中へ落ちることはなかった。 寝苦しさのせいでもなく、暑さや寒さでもなく、空腹でもない。ただただ、想えば想うほど、眠気から遠ざかっていく。 この夜が明けてしまったら、世界が消滅してしまう。 その事実が、安眠をもたらせない。…

シュガーシンク

可愛いスカートを身に付けた私。目立たない行きつけのカフェ。壁際と窓際の狭間にあるお気に入りの二人席。空が曇り、白いカーテン越しに重たい光が射し込む、憂鬱混じりの木曜午後三時の休息。 私はこのカフェで二番目に好きな、ふわふわのチーズスフレに銀…

見知らぬオリーブ

私が殺人を犯し、山の中へ逃げて四年目のこと。 夕立が降った、初夏のことだった。 天気が変わりやすい山にとって、夕立自体は珍しいものではない。 珍しかったのは、その日の来客だった。 玄関で物音がしたのが気になって覗いてみれば、少年が雨宿りをして…

愛憎劇“心の形”

人に溢れた街。流れに、信号に、暑さ涼しさに。都合に左右されて、人々が動いている。 揺れる心を、頭上に浮かして。 私には、人の心が、形になって見えるの。 初めて見えるようになったのは、中学生のときだった。思春期の真っ只中、性に将来に友人に親に恋…

ソウルプロット

雨が上がって、まだ間もない公園。正確には、雨が今だけ止んで、曇り空の隙間から青空が覗く、晴れ間の公園。俺は屋根付きのベンチで、雨宿りをしていた。 今のうちに帰ろうと、ベンチを立った時。その男は〈雨の隙間〉から抜け出したかのように、俺の前に現…

赤頭巾とフェンリル

「食べてもいい、ですか」 両手を上げ動物が威嚇をするようなポーズで、男は女に向かって言った。 女は数秒だけ男の顔を見て、何事もなかったかのように、読んでいた雑誌に視線を戻す。 恋人たちは給料日前のような日曜日を、いつものように自宅で過ごしてい…

廃アパート

僕が足を踏み入れたのは、荒れ果てた住宅街だった。 何か食べ物はないかと家探しをしてみたけど、案の定、どの家も既に荒らされた後で何も残っていない。そもそも家が荒れすぎていて、何処に食べ物の気配があるのかもわからない。 代わりにあるのは、転がり…

求めるは同一

陽の光も届かない、豆電球頼りの暗い地下室。そこに一人の少年が、横たわっていた。 少年は小柄な身体に、整った小さな顔して、長い前髪を顔に掛けている。服装は制服のズボンに、白シャツ。しかし、乱暴でもされたかのように、白シャツは所々ボタンが飛び、…

人肉コロッケ

日曜午後の商店街は、徒歩二十分の場所にあるデパートに負けじと、明るく活気を見せている。 私はすることもなく、足の向くまま商店街に来ていた。 商店街は、人の様々な動きが見れ面白い。物を売りたい人、物を買いに来てる人、私のように彷徨う人。出入り…

ブラックフェイス

あの日……あの昼の陽射しと、少女ながらに絶望したこたを、今でもよく覚えています。 それはもう、だいぶ昔のことでございます。私が幼い頃から、仲良くしくれていたお兄さんがいました。ご近所付き合いだったのかもしれませんが、そうだとしても、とても優し…

無色透明無価値な僕

何十年モノというワインに1滴の血が落とされたとする。 人は「価値が無くなった」「もう飲めない」と嘆き、ワインを流してしまう。 なんて、贅沢で愚かな価値観なんだろう。 ああ、確かにそれは、何十年モノというワインでは無くなるだろう。二つの液体は混…

愚かな生物

「はやく、はやく」 セーラー服に身を包み、ガスマスクを付けた細身の少女が、同じようにガスマスクに学ラン姿の少年を呼んだ。 微塵が飛ぶ灰色の空気の中、黒い水が緩やかに流れる川沿い、橋を潜った向こう側。 枯れた木だけが存在する、開けた河原。そこに…

理性と薬

積み重なった医学書。何度も書き直された淡い研究書類。黄ばんだ白衣に染み付いたカフェインの香り。これらは全て、彼女と再び並んで歩くための蓄積。成功と幸福を目指す過程の、道端の石ころに過ぎない。 ボクと彼女は、不幸を知らない甘い砂糖菓子で出来た…

白カーディガン

天使だと思ったのは、一瞬だった。 夢を見始めたのは年が明けた頃、少しざわめきが足りない歌舞伎町でのこと。僕は個人で頼まれた仕事をするため、パソコンを抱えてカフェに篭っていたんだ。そのカフェに通い始めて三日目ぐらいかな、昼過ぎに、僕に仕事を任…

メランコリーチケット

私の憂鬱なんて、きっと他人のモノに比べたら些細なことだと思う。 バイトをしていたフリーターが、バイトを辞めたらニートになる。だから、私はニート。バイト先の人間関係から逃げて、そのうちバイトが見つかるだろうとゴロゴロして、もう一年以上経った。…

招かれざる異人

「あら、キャベツ切らしちゃった」 日曜日、少しだけ陽が落ちた午後三時過ぎ。おやつに出されたホットケーキを口に運ぶ少年の前で、母親が呟いた。「ぼく、買ってこようか?」 少年はお小遣い欲しさに、自分から申し出た。「あら本当。じゃあ頼んじゃおうか…

背後ナニカ

「せめて……せめて、許されるなら、」 女は、暗闇に閉ざされた洗面台に向かって、懇願するように呟いた。/// 仕事中のことだった。パソコンのモニターを凝視する女は背後に、大きく威圧感のある、ナニカの気配を感じ取った。しかし、後ろを振り返るが、そ…

かれおちる

花弁が落ちるような動きで、ひらり、ひらりと、僕は落ちていった。 それは花がひっそりと脇役になる、夏のこと。暑さが少しずつ体力を奪っていく、夏のこと。 中学校は長期休暇に入り、僕みたいな帰宅部は日差しから逃げるように、家に篭っていた。クーラー…

秘密の甘味、不安と愉悦

「ここは、僕たちだけの秘密だよ」 貴方はそう言って、私に飴玉を渡した。 子供ながらに〈秘密〉という言葉がとても魅力的で、私は嬉しくなった。 雑木林の奥に見つけた誰も知らない秘密の丘。それが貴方と私の、一番最初の共有。 小学校三年生になって同じ…

終焉を求めた廃線跡

蝉が鳴き始めそうな、梅雨の中頃、夕方。山の中。 期末テストを終え、振替休日を迎えた二人の高校生……片山吉弥と白谷茜は、廃線跡の上を歩いていた。「意外と荒れてるもの、なんだね」 生い茂った雑草を足で踏みながら、白谷がそう言った。 そんな白谷のスカ…

回想列車

私が最初に感じたのは、懐かしく、そして、心地の良いf分の1の揺らぎ。次に、視覚的暗闇だった。線路を走る音、閉鎖的圧迫感から、電車に乗っていることを理解した。 しかし何故、明かりの無い暗闇の電車なんだろうか。何故電車に乗っているのだろうか。何…

ストロマグラナ

植物というのは、太陽光無しには生きていけないモノが殆どだ。しかしそれを欠点とし、弱いモノと見るのは間違いだ。むしろ悩ましいほどに、逞しい。 人間のように様々な栄養、阿呆みたいな欲、贅沢な時間に、価値ある経験を、植物は必要としないだろう。ああ…

内包されたラブレター

ねえ。退屈じゃない? 僕もそう思ってた。だけど、卒業式中に筆談はまずいんじゃないかな。 大丈夫だよ。私たち後ろの方の、真ん中だし。それに最後の最後って、先生たちも喜んでるよ。 そうなのかな。そうだとしたら、かなしいなあ。 悲しいの。前から思っ…

飼育される正しさ

小学校の校舎。鳴り響くチャイムが、三十秒遅れの授業終了時刻を告げた。しばらくして校舎から子供達が、黄色い声を上げて疎らに出てきた。 背中に背負った、黒に赤。中には水色から緑まで。 これからどこで遊ぼうか、今日はこんな面白いことがあったよ。そ…

虚しくも描いていた

私の人生は、予定変更の繰り返し。運命は、何度だって狂った。 幼い頃、私は花屋さんになりたかった。有り触れた少女の夢だったけれど、私は本気だった。でもその夢は中学生で変更された。 友達が書いていた自作小説に影響されて、私は小説家を目指すことに…

ぎやく

左腕の付け根が熱を帯びたように痛くなり、俺は鎮痛剤を探した。机の上で山になっていた原稿のなり損ないを、片手で払い除ける。ひらりと一枚一枚、原稿用紙が舞って床に落ちていく。真っ暗な窓の右上、時計を見れば、短針と長針が“2”を指していた。 最悪な…

ブクロナイン

適切な重さというのは、本人の都合だと思う。 誕生日に合鍵というのは、渡す方からしたら諸刃の剣だ。信用は求められ、時に酷く拒絶される。都合よく場面を使い分ける生物は、きっとヒトだけだ。 重いと思われるか、喜ばれるか。 受け取った私は断然、後者だ…

歓楽街の女に

「ご、ごめんなさい」 塾の帰り。入れ替わりで登校してきた生徒にぶつかって、求められてもいない謝罪が私の口から出た。求められてないからこそ、相手は何も反応見せず、教室の中へと入って行く。 浮いた私の言葉が死んでいった。私は、唇を強く噛んでいた…

雨舞台

僕の晴れ舞台はいつも、雨だった。 小学校のときの授業参観も、中学生のときのリレーも。雨男のそれとは違う。人に見せるときだけ、決まって雨が降る。 雨音が、水溜りが、湿気が……僕の舞台を作る。暗く、湿った舞台。 ああ、それはきっと、次の劇に相応しい…

臙脂色の傘

今日も、あの子の傘はなかった。 荷物の詰まった段ボールが日に日に増えていく。この街を離れるまであと、二日だ。 所謂、一目惚れというものだった。あれは二年前の梅雨。今日みたいに紫陽花が喜びそうな、シトシトと雨が降る、梅雨の日のことだ。俺は冷蔵…

残された結び目

赤い糸、と呼ばれるものがある。 それは運命の糸だなんて言われるけど、私はそうじゃないと思う。だって、赤い糸はきっと、血管の比喩。熱くて、命を流して、脈を打つ。 そう、赤い糸は繋がる……じゃなくて、結ばれる。 だって、例えどんなに愛し合って繋がっ…

迷えるノースポール

「ママー……どこー……」 少女の呼びかける声が、黄色くなった空と十字路に響く。 迷子の声は、母にも、誰にも届かず、ただただ不安混じりが濃くなっていく。 十字路を真っ直ぐ抜けた先、少女は白い砂浜を歩いていた。荒波が立てる音は、少女の呼ぶ声の気力を消…

夢寐病

人工的な静けさに包まれた東京に、中央線の音だけが響いていた。 乗客が存在しない電車は、もはや意味のない虚しい往復を繰り返している。 二十四時間のコンビニも、眠らない街も、夢の幻だったみたいに機能していない。 約二十日前。半数以上の都民が、まる…

黒い匂い

ふわふわぼさぼさの寝癖が、目立つ男の子だった。 たまに中でも会えたけど、中庭に行けばもっとたくさん会えた。 出会いは確か、私がカマキリの卵が孵ってるとこを見ていたとき、横からあの子が覗いてきたんだっけ。そうだ、カマキリのメスがオス食べちゃう…