温度のない風が、私の黒い制服のスカートを揺らした。
色のない建物。モノクロの空、その空の淵に、冷めた一等星の星雲が囲んでいる。
三日月街。
この町に来たのは、私の意思じゃなかった。逃がされたのだ。どこかの、お人好しに。「このままだと殺されてしまうから」あの人はそう言って、私を街角へと連れて行き、背中押した。
街角を曲がった先は、白色と黒色の街。赤い星々に囲まれた色のない空。どうやらここは、三日月街と言う名前で、私の住む新しい場所になるらしい。
街は、その色に相応しく、静かに感じた。音はする、するんだけど、どこか遠くから、音がするんだ。
私は、これからどうしよう。
一先ず、女子高生としての自分を売ろうということを決めた私は、煙草屋を探すことにした。
確か、残りの本数は二本。
煙草屋というのは、大抵街角にあるもんだと言っていた、先生の言葉を思い出し、私は街角を探すことにした。
けれど、この街はどうにも、角が多い。
私は、右に、左にと道が続く街角、その狭間に立ってみた。
どうやら、迂闊に街角を曲がらない方が良いらしい。
右を見れば、そこには幼い頃の私がいる。
左を見れば、燃え滓のような私がそこにた。
引き返し、また別の街角の狭間に立ってみる。
右を見れば、そこにはたくさんの人がいた。
左を見れば、ひとりぼっちの少年が背中を向けて立っている。
迷子になってしまいそうだなと、私は煙草を一本取り出し、火を点ける。
また、新しい街角。
右を見てみれば、藁の広がる河川敷。
左を見れば……私は迷わず、左を選び、煙草の煙を揺らしながら進んだ。
『モアイ』と看板に書かれた煙草屋を覗く。
「ねー赤丸売ってる?」
中には、なるほど、座布団に肩から上だけのお婆ちゃんが座っていた。だから、モアイ。
「あ……あ……黒丸……?」
「違うよー赤丸、あ、か、ま、る」
「あ……か、白丸?」
「なんでそうなるかなあ、じゃあもういいよ、黒丸、黒丸ちょうだい」
「一リットルになります」
「え、なに?」
お婆ちゃんの前には一リットルペットボトルが転がっている。
そういうことだろうか、これは藁に縋っていた方がマシだったかと思えてきた。
私は引き返し、藁の河川敷で水を汲んできた。
「はい、これで……」
「……天然水じゃない」
「はあ?」
「透明じゃないとだめなんです……」
私はペットボトルの水を凝視した。
確かに透明というよりは、それは白色一色に見える。
じゃあ、透明ってなんだろうと、私は思った。
本当に透明なものなんて、この世界ないんじゃないかと私は疑って、考えて。
結局のところ色をつけるのは私自身なんだと決め、モアイを真っ赤に染め、
煙草を口に、街を歩いた。
妖怪三題噺「モアイ 天然水 街角」
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