少年と少女は、困り果て、立ち往生していた。
その座標は、何処にも見つからない。何日、何年、星に辿り着くような遥かな時間を探し続けても、欠片も破片も見つからない。実体がないように、幽霊のように、掴むことすら、出来ないまま。
しかし、それでも必ず何処かにある、二人はそう信じていた。
クリスマスイブの日、少年少女が辿り着いたのは、音が消えたエメラルドが揺れる海上。全方位に広がる地平線は、ただただ、此処には何もない事を二人に訴えている。求めていた〈刺激によって怠惰を遠ざけた、確かな精神の安定〉なんて、何処にも見当たらない。
心を動かされることで、不安定に揺れる情緒を、安定させれると思って。
バレンタインの日、少年少女が辿り着いたのは、時間の先に荒れ果てた赤と黒に塗れた山頂。噴火口から溢れる固形物混じりの液体が、山の斜面を濡らして跡形もない。もちろんそこにも〈愛情から生まれる、永遠にも近いような心の安らぎ〉は、温度の端に、痞える空気にも存在することはなかった。
触れたいのは、孤独で寂しくて、空いた穴を埋めたいから。
誰かのバースデー、少年少女が辿り着いたのは、モノクロームに沈んだ無人の街。気配というものを失った街角は、住人が築き上げた思い出を一つ残らず過去にしている。〈誰しもが死なず離れない、平凡で有り触れた日常による安心〉は、少年少女は触れることすら叶うことがなかった。崩れそうで終わることのない街から、二人は言葉を交わすこともなく去っていく。
決して変化しない時間の中で、哀愁と恐怖に関わらないことを、当たり前に望んでいる。
だけどそれは、一向に見つからないまま。ついに探す場所をなくして、世界の何処でもない場所で、二人は立ち往生した。
あるはずの希望座標。絶対の〈安定〉〈安らぎ〉〈安心〉が、その座標には存在するという。涙も血も流れることはない、病にかかり誰かとさよならする必要もない。そんな希望に満ちた世界の、座標。
きっと見逃したんだよ。そう笑いあって、少年と少女は再び歩み始めた。そうやって無いことを疑わないのは、二人にとって、世界は光そのものだから。生きている限り、疲労や苦悩から解放されないなんて、おかしいと純粋に思えるから。
透明で、汚れ知らずな想いの原動力。絶対に安全だって言える座標を、全ての痛みから解放された場所を探し続けて、歩みを止めない。
遠い未来、終着点で二人が、大人になるそのときまで。
nina_three_word.
〈 往生 〉〈 安全 〉〈 座標 〉