kurayami.

暗黒という闇の淵から

行き止まりアスファルト

 良い天気とは言えない。暗雲のかかった空の下。
 男は何かを目指して歩いていた。どこまでも続く、黒い黒い、アスファルトの上を。
 滑らかで綺麗なアスファルト、その道の外。浅い、枯れた草原が、どこまでも続いている。男は道を外れる気にもなれず、アスファルトの道を進む。
 ふと、外を見ると、運動靴が一足落ちていた。近づいて拾うと、それは男の足には、ふた回りほど小さく、履けそうになかった。
 またしばらく歩き続ける。道の外に、目を向けるとまた、何かが落ちている。
 望遠鏡。
 キックボード。
 くまの、ぬいぐるみ。
 男は、一つ一つ広い、それを眺め、また同じ場所に、手を離して落とした。
 歩いているうちに、アスファルトの色が、黒から灰色へとなった。それはよく見る色。馴染み深い、アスファルトの色だ。
 道の外。
 お小遣いを貯めて買った天文学の本。
 友達と遊びたくて強請ったゲーム機。
 かっこよくなりたくて始めた野球道具。
 孤立したクラスメイト。
 男は、横目にそれを見て、歩みを止めることはない。
 アスファルトの道の上に、水溜りが、出来ている。水溜りには、なにも映らない。
 道の外。
 先輩への憧れで、バイトをして、やっとの想いで手に入れたバイク。
 まだ好きだった天体は、嫌なことから過去へ逃げれるプラネタリウム
 将来に必要だからと買い揃えられた、強制未来への受験勉強の道具。
 母親。
 男はそれに見向きもせず、いや、見ないフリをして、進み続ける。
 アスファルトが欠け始める。使い古された道のように、その道は疲れ始めていた。
 道の外。
 大学という環境と空気にアイデンティティを奪われた自身。
 取り返しの付かない事故と喧嘩から家族と縁を切られた自身。
 仕事に疲れ果て、欲も生活も見失った自身。
 自身、自身、自身。
 気づけば、アスファルトの道は、ヒビが至る所に入り、雑草が無造作に生え、歩くのが困難なほど、荒れ果てている。
 壊れ切ったアスファルトの道の行く手、道の外には、トルソーのマネキンが、山になって積まれている。そのマネキンたちは、まるで責めるように、目を細めて男を見た。
 男はそこで立ち止まり、マネキンの山を見上げた。
 マネキンの中の一つが、声を出す。
「目を反らすな」
 右からの声。
「手足も出せないお前を一体、何回殺した」
 左からの声。
「今までも見てきただろう。底に沈んでいったモノを」
 後ろからの声。
「お前みたいな何も無い上澄みに、次は何が出来るんだ」

「なあ、お前に捨てれるモノは残っているのか」

 

 

nina_three_word.

〈 上澄み 〉

アスファルト

〈 だるま 〉