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kurayami.

暗黒という闇の淵から

脈打つ鬼の角

 私に感情があることに気付いたのは、つい二日前のこと。
 私が家畜化動物である〈天鬼〉だということを知ったのは、ついさっきのこと。
 私以外の天鬼が死んだことを聞いたのは、たった今のこと。

 私は膝の上に両手を行儀よく重ねて、椅子に座っている。ただ、窓の外を歩いていく人間と同じ形をしたコレは、どうやら飾りらしい。
 運良くか、運悪くか。窓の外で私を指して、天鬼の蘊蓄を語る少年の声を聞いた。私たち天鬼は、鬼を品種改良した家畜化動物だと言っていた。この腕も脚も、鬼だった時の名残ということだ。ただし逃げれないように、腕も脚も筋肉が退化し、動かない。口は鳴き声を上げないようにか、舌すら生えていない。口は糸で縫われ、餌を食べる程の隙間しか開かない。
 大きく動くのは、この瞼だけだった。
 にしても、まさか私に感情が、知能があるだなんて驚いた。この驚きも感情からか。もっと早く自覚するべきだったが、まあ自覚というのは簡単なようで、難しい話だ。恐らく仲間たちにも、同じように感情があっただろう。しかし、それを確認をすることも、私にはもうできない。この屋根の下の仲間は全滅したと言う。新しい天鬼が来れば希望はあるが……推測するに私たちは、高い商品ではなかろうか。残念そうに全滅を電話で話す、店主の声色を聞く限り、そうだと思った。
 人間も同じように、私たちに感情があるということを知らないだろう。まあ、鬼を品種改良した種だ、知っていてやっているのかもしれない。
 そして、そんな人間たちが私たち天鬼から欲しいものは、この頭部に生えた大きな角だと蘊蓄少年が言っていた。取って、お守りにするのだという。聞いたときは、流石に呆れた。お守りを作るために、一つの生命を変え、新しく創ったのか。そんなことのために、この首の筋肉は、この重い角を支えているのか。ああ重い。
 窓に映る私に、赤一色の角が生えていた。
 脈を打っているのを、感じる。
 これは、推測というより、想像なのだが。この飛び抜けた知能は、この角から来ているのではなかろうか。つまりこの角は、脳の一部だ。そして近い将来、私はこの脳である角を切り落とされるのだ。知能がなくても、脳を切り落とすのは痛いということは、わかると思う。
 感情があること、家畜だということ、仲間は全滅だということ、そのうち脳を切断されることがわかった。さて、どうしよう。
 仲間たちは、なにを思考していたのだろうか。まあ無難に諦めていただろう。窓に映る私はとても美しい方だが、店主が私に〈落ち〉る可能性は、隕石が落ちるのとほぼ同じ確率だ。
 少なくとも、私は店主に〈落ち〉ているが。
 私を生かせるのは、この店主しかいない。私は店主無しでは生きれないのだ。そして、私を殺すのも、この店主だ。ああ、下手な人間の女よりは幸せなのかもしれない。尽くし尽くされ。
 机の上に突っ伏して寝ていた店主が起きた。ここから見る限り、店主の生活は良いものだと言えない。ベッドで寝ろ、野菜を食べろ、もっと笑え。死なれては困るし、家畜なりに私は悲しむだろう。
 店主が、私を見て細い目し、頭を掻いた。
 安心しろ。良い角を生やし、必ず笑顔にしてみせよう。
 そう想いを込め、私は店主に瞼をぱちくりとした。

 

 


nina_three_word.

〈 瞼 〉〈 角 〉〈 蚕 〉