日曜午後の商店街は、徒歩二十分の場所にあるデパートに負けじと、明るく活気を見せている。
私はすることもなく、足の向くまま商店街に来ていた。
商店街は、人の様々な動きが見れ面白い。物を売りたい人、物を買いに来てる人、私のように彷徨う人。出入り口とアーケードに区切られ、まるで一つの世界のようだ。
そんな商店街世界を歩き回る内に、肉屋のコロッケが目に入った。四十円という安さと小腹を満たしたい欲が私を誘って、気付けば店主の前で財布を開いていた。
肉屋のショーケースの中には、綺麗な色をした、ピンクや赤の肉塊が規則正しく並べられていて、食欲をそそられる。
そんな肉塊の宝石を見ていて、ふと、もし、もしもの妄想が、頭を過ぎった。
もしも、もしも。この肉屋の店主が、裏社会に通じていて、人肉カタログで安く仕入れ、売り出していたとしたら。店主が人肉を食す常連を見て、興奮する性癖を持っているかもしれない。
ああ、向かいの魚屋だって、もしかしたら人肉を餌にした魚を売っていたとしたら。奥にある生簀の中で可愛らしく泳ぐ魚も、私たちヒトの味を知っているかもしれない。
服屋はどうだろう。一見、危険な感じはしない。だけど、もしかしたら、試着室に入った途端に、性欲が強い店員のお姉さんが、男女構わず性欲のまま強引に犯して殺しているかもしれない。
写真館だって、撮った写真を何に使うかわからない。撮ったその人を写真を使って脅していたとしたら。写真を焼き増しして、情報屋として自由に使っているかもしれない。
駄菓子屋は、安全だろうか。子供たちは意外と警戒深い。死なせることは簡単でも、殺すことは難しい。だから、誰かが危険にあるとしたら、店主のお婆ちゃんだ。実はもうこの瞬間には、お婆ちゃんは殺されているかもしれない。
煙草屋なんて、何があるかわからない。煙草を売る裏で、もしも、薬物を売っていたとしたら。依存性に堕ち、薬物にコントロールされた客を良いことに、儲けているのかもしれない。
そもそも、危険なのは売る側だけとは限らない。この商店街の中にある細い裏路地なんて、人気が無くて事件を起こすには良い場所だ。もしかしたら、そんな良からぬ妄想を頭の中で……
「はいよ、コロッケだ」
肉屋の店主の声で、私は我に帰る。
「あっ、ありがとうございます」
「いつもありがとね」
人懐っこい笑顔で、店主が私に礼を言った。前に来たのは一ヶ月も前なのに、よく覚えていたものだと感心する。
何か、どうでもいいことを妄想していたような気がする。しかしそんな思考も、コロッケの優しい温かさに上書きされて、掻き消された。
商店街世界は、今日も、明るい活気を見せている。
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〈 商店街 〉
〈 妄想 〉