人々は犯した罪の数なんて、元々、覚えていなかった。
言われても思い出せないかもしれない。
見えても、思い出せないかもしれない。
一年も前のことだ。都心の夜空に紅いオーロラが現れ、人々は終焉を唱え始め、次第に終焉を待ち望むようになった。
揺れるオーロラは、まるで水面の中の夕焼け。
終焉世界東京の幻想は、オーロラに留まらない。
オーロラの揺れる夜だけ現れる、人影の中の、金魚。
金魚の種類、色、数は人それぞれだった。
金魚の群れを泳がす、売春婦。
黒い出目金を泳がす、男子高校生。
白と黒の金魚を泳がす、女子高生。
三匹の蘭鋳を泳がす、フリーター。
薄々、金魚がなにを示すか、人々は気づいていた。その人自身だからこそ、気づく。過去に犯した過ちの数々と重なる、金魚。
しかし全ての金魚を自覚することはできない。閉ざした記憶はすぐには開かない。
具現化した罪がわからないまま、終焉を迎えることに抗う人々は、罪を追いかけ、ある男へとたどり着く。
掬い屋、松田ヨシマサ。
唯一金魚に触れ、掬い、その罪の断片を見れるという。
これは、掬い屋と、その男の影に潜む“紅い鯉”に纏わる、終焉の中の終わらない物語。
妖怪三題噺「金魚、オーロラ、序文」
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