「お仕事お疲れさん」
アシュラフがそう言って、自身のリストにチェックをつけ、タバコを一本取り出す。すかさず私が、火をつける。
床に転がったターゲットを見て、私の仕事はこれからと、ため息をついた。
アシュラフと私は、女性限定ターゲットの殺し屋だ。アシュラフが殺し、見習いの私が手伝い、後片付けをする。
この仕事に就いて三ヶ月、わかったことは三つあった。
一つ目、アシュラフは人使いが荒い。
二つ目、慣れたら楽。
三つ目、アシュラフは、女好き。
アシュラフはいつも、ターゲットの情報を綺麗に、箇条書きにして、リストにしている。その中には、赤いマーカーで惹かれている名前があった。
最初のうちはわからなかったが、どうやら好みの女性に、マーカーを引いていたらしい。だって、殺すときいつもニヤニヤしてる。
それで、マーカーを引かれた、最近殺された八人の共通点を探したんだけど、それはすぐわかった。どうやら、黒髪が好きらしい。
イタリア人のくせに、黒髪が好きだなんて変わってる。変わってるから、殺し屋なんかをやってるのかもしれないけど。
アシュラフは、壁に背中を預け、タバコを吸いながら私の後処理を見ている。口には出さないが、面倒見がいいのだ、ちゃんと私が自立できるように、仕事が終わった後一言、二言、助言をくれる。
「ねえ、アシュラフ。貴方、黒髪が好きでしょう」
私は、死体バラし、袋に詰め終え、床を掃除しながら訪ねた。
「ああ、なんだ、バレちまったか」
アシュラフはあまり、驚いた顔をしなかった。
「そりゃ、あんなあからさまなリストと、顔してたら」
「嫉妬か?」
正直、嫉妬もある。
私だって、黒髪なのに。
「そんなに黒髪が好きなら、アジア圏で働けばいいのに」
「やー、そうしたいのは山々なんだが、ビジネスの成功確率が低い。やってられないね」
「ふうん?」
たった三つしか違わないのに、歳下のくせに、大人だなあ、と思った。
死体の詰まった袋を担ぎ、アシュラフと私は部屋を出た。
家に帰り、私はシャワーを浴びる。念入りに髪を洗い、トリートメントを馴染ませ、コンディショナーで保護する。お風呂上がりのケアも忘れない。念入りに、ブラシで髪をとかした。さらさらの、長い黒髪が私の自慢だ。
それも、あの人の目には止まらないらしい。仕方がない。
仕方がないから、私は。今日の収穫物を袋から取り出した。今日のターゲットの黒い、髪。床の板を外し、底に放り込む。
床下には、一面の黒い髪と、暗闇が、一体化していた。
アシュラフは、喜んでくれるかな。
妖怪三題噺「黒髪 リスト 床下」