kurayami.

暗黒という闇の淵から

騎士の唄

「すとっく、すとっく、ないっ」
 陽の出た日曜日。家の前で少女が歌を口遊み、犬の毛繕いをしている。
「すとっく、すとっく……ねえ、マーマ、この歌ってどういういみー?」
 少女が開いた玄関の奥に向かって、問いかける。
「ねーえ。マーマ」
「国のために、男はどんどん騎士になろうねって、歌だよ、カリナ」
 男の声に少女……カリナが顔を上げる。
「パパ!」
 カリナが顔を輝かせ、父……ユウイに抱きついた。
「カリナ、カリナどうしたの。ってあら、貴方」
 玄関から母……セリアが顔を出した。
「ただいま、セリア」
「……どっち、かしら」
 セリアが不安そうに、顔を曇らす。
「すまない……悪い方だ。もう、二日後には戦争が始まる」
「そうなの……」
 ユウイの言葉に、セリアが暗い声を出した。
「えーパパまた行っちゃうのー」
 カリナが寂しそうに、大きな蒼い目でユウイを見つめた。
「また行くけど、必ず帰ってくるさ。ほらほら、玩具を買いに、街にデートと行かないか?」
「えっ、カリナお洋服がいい!」
 そう言って、カリナは家の中に準備しに戻る。
「大丈夫さ、必ず帰る」
 ユウイがセリアに向き合い、抱きしめ、約束する。
「俺は、この国の騎士だからな」


 戦争が始まり、数ヶ月。どちらが優勢になるわけでもなく、ただただお互いがお互いを抑えるような攻防が続く。両国の物資が尽き、戦争が終わるのは時間の問題となっていた。
 曇が柔らかく浮かぶような、晴天の日のこと。ユウイが所属する部隊は、国の研究所を守備し、その日を終えれば、一度、国へ戻れる予定となっていた。
 しかしその日、多くの敵が研究所を攻め込んだ。攻防の末、敵を全滅することにユウイたちは成功したが。失ったものは、多かった。
「ああ、ユウイさん……片腕が……」
 ユウイの部下が、爆発で弾け飛んだユウイの片腕を心配した。
「下半身飛んでる奴に心配されたくないよ。いいから、眠れ。お前はよく頑張った」
 ユウイがそう言うと、部下は安心したように、黙った。
「……ストック、ストック、ナイト」
 懐かしい歌を、忌々しい歌をユウイは口遊む。
「代わりはいくらでもいる、か」
 ユウイは、片手のランスを握りしめる。
 騎士道精神に、代わりなどない。己が積み上げたモノだけだ。しかし〈代わり〉は。
「カリナ、セリア、すまない」
 最後の最期。その後までユウイはランスを手放すことを、しなかった。


 一ヶ月後。
「すとっく、すとっく、ないっ」
 日が暮れた水曜日。少女が、門の前で口遊む。
「……パーパ」
「呼んだかな?」
 男の声に、カリナが振り向く。
「パパだ、パパ!」
「ただいま、カリナ」
 男の両の腕が、カリナを持ち上げた。


nina_three_word.

〈 騎士 〉

〈 口遊む 〉

〈 ストック 〉