僕の晴れ舞台はいつも、雨だった。
小学校のときの授業参観も、中学生のときのリレーも。雨男のそれとは違う。人に見せるときだけ、決まって雨が降る。
雨音が、水溜りが、湿気が……僕の舞台を作る。暗く、湿った舞台。
ああ、それはきっと、次の劇に相応しい。
高校生活最後になる演劇部の劇は、ふざけたモノだった。
誰が言い出したか、実際に雨の降る劇をやることになった。ホースでうまい具合に雨を作り出すと言う。許可する学校も学校だ。
そして僕は、そんなふざけた劇の主役を務めることになった。まだ主役をやってないだろって。ああ、いい加減で適当だ。だけど、任されたからにはこんなふざけた劇でも成功させたくなる。
それに正直、主役は嬉しい。
人に目を向けて欲しくて入った演劇部だった。でもこの三年間、すぐに舞台袖に消えていくような脇役だけだった。パッとしないからと言って、あんまりだ。
今回の脚本は、神代さんが書いてくれたものだった。しっかりと雨に沿った、救いのない悲劇となっている。その暗さに賛否両論もあったが、僕は好きな脚本だった。神代さんの書くダークな雰囲気が好みなのもあるけど、喜んだりするより、悲しむ演技の方が、僕にはお似合いだったからだ。
根暗は、根暗らしく。
「この雨は、罪までも洗い流してはくれないぞ」
僕は誰もいない舞台上で台詞を吐いていた。最後の劇だというのに、同級生たちは練習も早々に切り上げ帰っていった。この広い体育館には僕しかいない。
神代さんが書き出した悲劇は、家族を殺めた彼女に苦悩する正義の男の物語。僕は愛と正義の間に揺れ、堕ちていく男を演じる。
「ああ、お前は哀れだ。だが、この雨が止む前にその罪を告白すれば、お前はきっと、きっと!」
事件が起き、収束する最後の日。男が彼女を選び正義通す、雨降る夜。男は彼女に自首するように説得する。雨の性質をテーマに、物語は進展していく。
「悩むことはない、この雨はお前自身だ、この膨大な雨粒はお前の、お前の罪の意識だ」
しかし、何故、神代さんは、人は、雨を嫌悪するのだろう。
例え人の晴れ舞台に降っても、僕は雨を嫌いになれなかった。好きと言う程のものではないけど、雨は様々な物を押し潰して、リセットしてくれる。
静かに街を濡らして、まるで大丈夫だよって、言ってるような。
「ああ、なぜだ、何処へ行く。俺を、俺を置いていくな!」
僕の掠れた声が、舞台へと落ちていく。
最後、正義と愛どちらも選べず得れなかった哀れな男を置いて、彼女は木漏れ日の向こうへと走っていき、舞台は終わる。
雨上がりの木漏れ日は水蒸気に光が反射して、光のカーテンになると聞いた。
まるで閉幕だ。
きっと、当日は雨の予報。雨天決行のふざけた劇。
根暗な高校生と哀れな男役に、贅沢な光の閉幕。
一度外に出れば、大量の雨粒が僕に、拍手を送るだろう。
nina_three_word.
〈 木漏れ日 〉
〈 掠れ声 〉
〈 哀れ 〉
〈 晴れ舞台 〉