kurayami.

暗黒という闇の淵から

融合人間キメラ

 鈍い音が廃墟の地下室に響き渡る。よく見れば彼が振り下ろした鉈は、死体の足を切断しきれなかった。ああ、彼の作品性で言えば、一撃で切断出来ないのはまずい。ぐちゃぐちゃになった皮膚と切断面は使い物にならないから。再び鉈が振り下ろされて、高い金属音が響き渡る。良かったね、今度は綺麗に切断出来たみたいだ。
 地下室に唯一取り付けられた青白いライトが、彼を照らしている。
 細くヒョロい身体。特徴の無い平凡な顔。それらに返り血。
 ここには私と彼と、数々の未完成の作品だけ。
 私と同じ大学に通う彼は、周りからはカーディガンの萌え袖がよく似合う気さくな男の子でしかない。近くにいたら必ずご飯に誘われるような、害のない子。かと言って彼氏にするのには、何処か物足りないと言われてしまう男の子。癖でよく「へへ」と笑っている。
 そんな彼の〈化けの皮〉を一度剥がせば、芸術性を求めた殺人鬼が顔を出す。
 彼が追求するものは〈融合人間〉だ。身体を覆う肌は人によって色も質も違う。浅黒い肌があれば真っ白で黒子が似合う肌もあって、毛穴が目立ったり滑らかだったり傷がある肌もある。彼は個性ある肌を絵の具のように見て、複数の人間を殺し、縫い合わせて〈一人〉を組み立てていた。
 彼だけの創作性を含んだ、オリジナルの〈融合人間〉。普段被った気さくな男の子の皮を良いことに、彼は田舎町で人間を殺し続けていた。下半身を目的に狙うのならば心臓を刺せばいいけど、上半身狙いとなると殺し方に工夫がいる。締殺、毒殺と一手間がかかる。しかし、それでも彼は融合人間を求め続けて、健気にも殺している。
 そう、とても健気なのだ。その〈化け物の皮〉を剥げば、とても。
 縫い合わす技術から見れるように、彼は手先が器用なんだ。ちょっと縫い間違えただけで、ため息をついて縫い直す。繊細なんだ。実は人の言葉に一喜一憂しているし、私には弱音を吐いて抱きついて甘える。気さくな男の子でもなくて、殺人鬼でもない彼の正体を知っているのは私だけだ。
 秘密への優越感もあるけど、彼が心から可愛らしくて愛おしい。
 繰り返すけれど、彼はとても繊細だ。故に人間をいとも容易く見透かす。殺す相手も選べるし、殺すことが出来る。
 だから彼は私を……私という人間の裏側を見透かしているんだろうと思う。
 コピーにコピーを繰り返し続けて、私の心が〈誰か〉の継ぎ接ぎで造られていることを。
 私がオリジナルでは無いってこと、その繊細と狂気の眼差しで見透かして、側にいることを許してくれている。

 私たちお似合いだね。

 

 

 



nina_three_word.
〈 化けの皮 〉
〈 裏側 〉