私は何度だって、ここに来る。
いつも通りの帰り道、いつも通りの中央線。いつも通りのこの時間。
全部がいつも通りの夕焼け空の下。私はふと思い立って、この駅で降りる。いつも降りる駅の二つ、三つ前。時間で言えば十五分前だ。
北口は下校途中の高校生と、たまに登校途中の定時制の高校生がごった返している。今日は特に人が多いなあと思ったのは、きっと駅前のあの集団のせいだろう。スピーカーを片手に何かを訴えている。ちゃんと、響くのかな。
きっと、もう少しだけ、ほんの少しだけ、あの場所が近かったら、私は毎日のように通っていたのだろう。だけど、毎日通うには遠すぎる、だからこそ救われる。
隣の君を想うことが日常だったら、それはきっと、地獄なのだから。
人の流れに逆流するように進んで、ちょっと背伸びしたモノレールの下を進む。ベンチに座る高校生たちこそ、昔のあの頃、それこそ隣の君より昔を思い出すよ。ここがモノ下と呼ばれていると知ったのは、後輩たちが教えてくれたんだ。いや、それこそ隣の君だったかもしれない。
映画館沿いのカフェと、空き地を囲うフェンスに挟まれた細く長い通路を通った先に、だだっ広い草原と、その草原の中から盛り上がったような建物が存在する公園が現れる。
高校在学中、この公園を毎日見ていたのに一度も行かなかったのに、隣の君は私の手を引っ張って、あっさり連れて行ってくれた。
その影響が今もこうして、あるだなんて知ったら、隣の君は笑うだろうか。ひいてくれるだろうか。
盛り上がったような建物への道を、くねくねと進む、あの景色に間に合うかな。草原には疎らに人がいた。今日は人が少ない方かも、少しラッキーだ。
建物の上、その奥。ここにはやっぱり、人がいなかった。好き好んでここにくるのは、隣の君のような変わった奴と、私みたいに囚われた奴だろう。
その景色には、間に合った。いつも隣にいた君が教えてくれた、絶好の場所。
広い広い無限の空に、橙色が染め広がっている。
誰もいないここは、本来君に伝えたい言葉を、独り言にして吐き出すのには、ちょうど良かった。
「 」
「 」
「 」
「ねえ」
何度、何度呟いても、やっぱり、隣には君がいない。君は目の前の夕景色の中で夕映えとなっている。
隣じゃなくて、前に。それがどんな意味かだって、私にもわかっている。
無限の空が、徐々に大黒幕に隠されていく。それと同時に、夕映えの君も、桔梗色に消えていく。
私やっぱり、消えていく君が大好きだよ。
nina_three_word.
〈 隣 〉
〈 夕映え 〉
〈 ホリゾント 〉