薄暗くて、遠くが見えない。孤独な場所に私はいる。
昔はね、もっとたくさんの人がいたの。若い子から、お姉さんまで。みんな姿形が違って、心や容姿に可愛さや綺麗さ、かっこよさを持っていた。
売れ残った私とは、大違いで。
みんな、誰かに価値を認めれて、何処かへ連れて行かれた。不安そうな顔、嬉しそうな顔をして。羨ましいけれど、みんなが連れて行かれることや、私が残ることには納得してしまう。
だって、こんなにも汚れているもの。
お試しだって言って。返却だから、と言って。
私にはとても、価値なんて付けれない。
「おめでとう」
誰もいないはずの空間からの声に、私は咄嗟に振り返った。
声の主は、灰色のジーンズを履いて真っ白なワイシャツに袖を通した、ボサボサ髪の男の人。
「おめでとう。見事な売れ残り。無残な残り滓」
拍手もせず、感情を隠すような黒い瞳が、私を見つめて呟く。
「貴方の値札を書き換えに来ました。買い取りに来ました。ええ、ですが、そのままでは値段も与えられません。あまりにも汚すぎます。そのことは自覚していますね?」
彼の言葉に、私はこくんと呟く。傷付きはしなかった。むしろ、肯定されて変に安心している自分がいる。反面、今更買い取られるなんて事に、現実味が湧かなかった。
「なので、これから貴方を漂白します」
宣言にも近い、彼の言葉。
手を引かれるまま私が連れて行かれたのは、広く白い綿の大地。ふわふわした地面を踏みしめて、遠くを見渡しているとき、ふいに肌寒くなった。
何かと思えば、彼に皮膚を剥がされている。露出する赤黒い内部。不健康な内臓。目にした彼が、眉間に皺を寄せた。
私の中に存在する黒く淀んだモノを、彼が引き摺り出し、捨てて、ときには握りつぶしていく。血の中に存在する汚れすら、彼には許せないらしい。全て抜かれた血は、ロ過装置で丁寧浄化されて、私の中へ戻された。
長い時間、彼の男らしい指で洗われて、仕上げに彼は〈白いモノ〉を私かける。ベタついて糸を引くソレは、間違いなく彼のモノ。そのとき初めて、満足と疲労と、感情を浮かせた彼の瞳を見た。
全てを探られ……書き換えられて、生まれ変わった気分。だけど、これはあくまでお呪いに過ぎないの。私が思い出せばまた汚れるだけだし、彼が納得するかしないかが全て。残り滓だったことに変わりはない。
「漂白が終わりました。これで貴方は僕だけのモノです。どうでしょう、新しい値札は。僕の中でも最も高い数字をつけました」
優しい表情でそう言った彼のワイシャツは、まるで犯されたように薄汚れていた。
nina_three_word.
〈 残滓 〉
〈 漂白 〉
〈 値札 〉