kurayami.

暗黒という闇の淵から

夏休み最終日と世界過度期

「発射されたって、ミサイル」
 夏休みの暮れ。明日から始まる学校という現実から逃げるように、俺は友人の峰哉の家に遊びに来ていた。
 それこそ夏休み最終日らしく、やることもなくて漫画を捲っていたときのこと。
 突然の峰哉の言葉に、俺は聞き直した。
「ミサイル?」
「うん。たぶん、ミサイル」
 峰哉が、手に持ったスマートフォンを振りながら答えた。
「どこからよ」
「それがわからないんだってさ。世界各地の上空に、全て無かったことにするような大きいやつが放物線を描いて飛んでるって。まあ放物線を描いてるんだから発射地点はあるわけなんだけど、なんかそれもよくわからないらしい。何もない空き地とか、民家からだとか」
 峰哉の言ってる意味がわからなくて、俺は無意識に自身のスマートフォンをネットに繋げようとする。
「あれ、繋がらない」
「そりゃ世界中が混乱してるからさ。ワイファイ使う?」
「……良いや」
 唯一繋がっていたSNSを見る限り、騒がしさからしてそれは本当らしい。
「着弾まで残り七分……」
「それ遅いね。こっちのサイト見る限り五分だってさ」
「いや、どのみち変わらねえよ」
 俺は呆れて漫画を本棚に戻そうとして、わざわざもう戻さなくても良いのかと一瞬考えて、やっぱり本棚へと戻した。
「俺たち死ぬのか」
「たぶんね」
「それにしては静かじゃん?」
 峰哉の家に親御さんがいないにしても、窓の外はあまりにも静かだった。
「あと四分とか五分で、どうにかしようって騒がないものだと思う。僕らみたいに」
 それもそうかと、納得した俺はタンスに背を預ける。
 そんな俺の様子を見て、峰哉がなぜか安心したように微笑んだ。
「なんだよ」
「いや、ね。たぶん今回が初めてじゃないんだよ。こうして全部無くなる事。全てを無かったことにする、ミサイルが飛んでくる事も」
 また峰哉がわからないことを言い始めた、と思ったが、最後だから黙って聞くことにした。
「僕らはきっともう、新鮮なんかじゃない。古くなれば新しいものが必要になる」
「つまり、このミサイルの騒動はいわゆる“神様”の仕業……ってことか?」
「そういうこと。今はまさに世界過渡期の始まり」
 らしくもなく椅子に深く身を預けている、峰哉の言う〈過渡期〉の意味はわからなかった。しかし、終わる前に面白い話は聞けた気がする。
「なんだよそれ。せっかく席替えで良い席取れたのに、また席替えみたいな気分だわ」
「面白い例えをするなあ、君は。でもそうだね、せっかく良い居場所にいるのに、勿体無い」
 窓の外。低い音が唸っていた。
 明日から学校だったということ。死ぬ前にこいつと一緒にいれたこと。これがただの席替えに過ぎないこと。無理やり、付け焼き刃のような納得をするのには、理由が揃っている。
 続きを峰哉と話そうとしたとき、眩い光が俺たちを襲った。

 

 

 

 


nina_three_word.

〈 居場所 〉
〈 過渡期 〉
〈 放物線 〉