kurayami.

暗黒という闇の淵から

独裁者のお終い

 貴方には何度言っても駄目ね。
「もう知らないわ、勝手にして」「怒るよ」「さようならする?」「私、不幸になるつもりはないの」「いい加減にしてよ」「馬鹿じゃないの」「本気で言ってるなら一緒には居れない」「居なくなっちゃえばいいのに」「次は無いって言ったよね」「帰ってよ、目の前から消えて」「もういい、知らない」
 もう、もう、もう……何度も繰り返し呟いてきた。
 嫌な事があるたびに、私は貴方に脅しと駆け引きをしてきたの。それがズルいってことはわかってる。正しく無いことも、子供っぽいことも。だけどそうでもしないと貴方がわかってくれないと思って。これが私なりのアプローチで、私なりの愛し方だから。もう知っているでしょう?
 だけど貴方ってば、私がどんなに突き放す言葉を並べても全く危機感を持ってくれない。振り絞って出したどんな言葉も、全部「わかってるよ」の顔をしてニヤついて受け入れてしまうもの。
 本当にズルいのは貴方の方ね。
 私が離れようにも離れられないことを、知っているから。
 余裕な顔。とても貴方らしいと思うわ。そして大きな魅力だとも思う。何事も慌てない……心配させない。先を見透かしてる。だからこそ大胆な素振りをしていて、側にいて安心できるの。そんな貴方が好きで……大好きだった。
「もう、お終いにしようか」
 私の言葉に、貴方はいつも通りの顔をする。余裕そうね、本当に貴方らしいわ。もはやその頭にあるのは〈離れられないこと〉じゃなくて〈いつも通りの突き放し〉なんでしょう。余裕が油断になっていることも知らないで。
 私ね、いい加減ソレが寂しいの。貴方の余裕で貴方だけが有利になって、手の平で私が踊るだけの現状がとても寂しい。私たちの恋愛が貴方だけの舞台になっているじゃない。なのに貴方は、本当の私を実のところわかっていないのよ。
 ねえ私、本当は貴方を独占したかった。大切に愛を与え続けるから、私のために一生踊って欲しかった。
 でもその願いは叶わないみたい。哀しいことに貴方も独裁者だから。きっと〈離れられないか弱い私〉しか見えてないんだよね。それがとても残念で哀しい。もう、終わらすしかないから。
 お互い独裁者だけど「二人でもっと幸せになりたかった」……なんて言ったら、貴方は笑うのかしら。
 そしてやっぱり、貴方は最後の最後まで気付いてくれないのかしら。
 私がまだ、貴方がいつも通り「わかってるよ」の顔で見透かしてくれるじゃないかって希望を持っていても、笑わないで欲しいな。

 

 

 

 

nina_three_word.

〈 突き放す言葉 〉を並べても結局〈 あなたらしい 〉