「なあなあ。噂なんだけどさ」
「台所の夕暮れ鯨の話でしょ」
「違う違う。全く新しい話」
「ふうん。都市伝説ってそんな、ぽんぽん生まれるものだったかな」
「いいや、俺とお前が知らなかっただけだ。なんせ今回は、三つもある」
「へえ、三つも。ああ、三つ、と言えば……」
「まあまあ。聞けよ。まずは、聞いてみなって」
『探す警察官』
K市E公園でのこと。
夜中のことだった。終電を逃した男が、歓楽街から逃げるように公園を訪れた。
中央に位置する大きな池と、人っ子一人いない雰囲気が寒気を呼び、男を震え上がらせる。
あまりの寒さに男は萎え、帰ろうとした……そのときだった。
「あのぉ、すみません」
男は後ろから声を掛けられ、振り返る。
そこには、ライトを持った警察官が立っていた。
職質だろうかと考えた男が、聞くからに元気のない返事をする。
「はい」
「今、女の子を探していましてぇ、もし良ければご協力お願い出来ますかぁ」
警察官が、独特の喋り方で男に聞いた。
男は安心し、警戒を解く。
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。しかし、この公園に入ってから人っ子一人見てないですよ」
「そうですかぁ……三つ編みで、水色の髪を持った女の子なんですけどぉ……」
「見てないですねえ」
男は素直に答えた。
「残念ですねぇ。うん、じゃぁ、行きましょうかぁ」
そう言って、警察官が男の手に手錠を掛ける。
「な、なんですか。なんのつもりですか」
「なにって。探すのに協力してくれるって言ったじゃないですかぁ」
警察官が喚く男の肩に警察官用の上着を掛け、帽子を被せ、暗闇の奥へと連れて行く。
女の子が見つかるまで、永遠に。
『呪いの電話』
ああ、あれは忘れはしない。年が暮れる頃のことだ。眠ければ布団に潜るし、腹が減れば飯を食いに行く。ただそれだけの自堕落生活を続けていたある日、当然のように、突然に、僕は生活に限界を感じた。今思えばまるで操られたかのように、僕は風呂場で手首を深く何度も切り、ぬるい浴槽に浸し始めた。このまま死ぬのかと気を失って、どれぐらい経ったときだろうか。僕は、電話の呼び出し音で起きた。見たことの無い電話番号だった。手の届く位置にあった携帯を耳に当て電話に出ると、可愛らしい少女の声がそこから聞こえた。「__、___、__ 」と、短く僕に要件を伝え、少女はクスクスと笑いながら電話を切った。直後、僕は風呂場を飛び出て、ペンを握り、メモ用紙に書き始めた。噺を書くこと。少女が僕に、言葉とは別のモノで伝えた要件だ。書かなければならない。何故かそう思って、書き始めたんだが、もう、書き始めて何年になるのだろうか。何度も辞めようとしたのだが、辞めれば手首から血が流れ始める。書いているうちは止まる。ああ、それに何故か、書くのがとても、楽しい。書けば書く程、抜け出せなくなる。
今日も、呪いの電話が、僕にかかってくる。
『路地裏教室』
原宿の裏には、教室がある。
ああ、裏原宿じゃない。原宿の路地裏だ。条件が……えっと、なんだったかな。
そうだ。夕暮れ、電柱が見えない路地裏。誰も見ていないところで。
「おはようございます」
そう三回、真正面を見ながら挨拶して進むんだ。それだけで良い。
そうして道なりに進むと、教室の残骸が地面に落ちているのが見える。掃除ロッカー、生物係りの水槽、誰かが落とした給食当番の割烹着、赤白帽。それらを目で追っているうちに、あっという間に教室に着くんだ。
気付けば席の真ん中。「クラスメイト」に囲まれて、教壇には「先生」が立っている。
そこに辿り着いた人はクラスメイトに混じって、先生からある質問をされるんだ。
「xぁう寐xちゃんを隠したのは、だあれ」
まるで聞き取れない、女子生徒であろう名前を、先生が無機質な声で言うんだ。
もちろん誰も、辿り着いた人も、反応しない。できない。
「わかりました。それじゃあ、みなさん伏せてください。知ってる人は手を上げてくださいね」
先生はそう言うんだけど、何故か誰も動かないんだよね。
そこで辿り着いた人も動かないでいると、先生に、
「そこのあなた、はやく伏せなさい」
と急かされる。
そこで仕方がなく伏せると、辿り着いた人は、誰かに頭を抑えられる。
「ん眼pqぃちゃんを隠したのは、だあれ」
また、先生の質問。
しかし頭をあげようとも、抑えられて動けない。
質問は手を挙げるまで繰り返されるんだけど、この時、絶対にしてはいけないことがあるんだ。それをすると、もう帰れなくなってしまう。
それはね、嘘を、つくこと。
「……ってね。どう、どう」
「うーん、面白いかは、さておき、いつも疑問に思うことがあるんだけど」
「なにさ」
「これってさ、みんな消えたりしてるわけだよね。こうして僕らに伝わるまでに、誰がどう伝えたのかな」
「ああ、それはね。全部全部。あの話も、この話も、呪いの電話を受け取った男がね」
「あーなるほどなあ」
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三つの「都市伝説」