kurayami.

暗黒という闇の淵から

僕が知らない時間

 今、僕が死のうとしてる話から、少し溢れるんだけどさ。
 元々、貴方としていた「一年賞を取る」って約束が守れなかったからじゃん。実はアレ、締め切りそのものが守れてなかったんだよね。うん、えっとつまり、作品そのものを出せてなかったんだ。いや隠してて悪かったって。いいじゃん、知ったところで死ぬ原因とは関係無いんだし、さ。うん。続けるね。まあ締め切りを守れなかったのは様々な理由があって、その九割は僕が悪いんだけど。疲労って、どうしようもなくない? なくない。そう。厳しいなあ。眠気は? 生活力不足。だよね、野菜ジュース足りない感じ。そうやって厳しい割には、死ぬ僕を止めようとして……まあそれも、厳しい故か。ちなみに何故、隠し通せたか。思い返してごらん。今回の件の関係者たち、貴方とも繋がりのある人たちを最近見かけただろうか。その顔、その通り。関係者全員僕がハチオジ送りにしてやったのさ。
 貴方に知られたくなくてね。証拠隠滅なんて図々しい真似、普段は……いや割と図々しい人生は送ってきたモノでした。いや、話が溢れに溢れているね。溢れてしまったものはもう掬えないけど、溢し直すことは出来るよ。一旦戻って、えっと、そう、僕は死のうとしてたんだ。さっきは原因と関係ないって言ったけど、ごめん、本当は作品出せないから死ぬ。で、約束してた賞は取れなくて、実はそもそも作品を僕は出していなかった。で九割原因は僕にあるけど……ってところまで戻るよ。そう、一割。これが話したい溢れ話なんだ。僕ね、作品を作るための期間中、よく街に出てたじゃん。普段よりも。だから〈在る場所の僕が知らない時間〉にも遭遇してたわけ。例えば〈平日午後二時のレンタルショップの裏路地〉とか、今まで知らなかったみたいな。知らなかったんだよ。でさ、水曜午後四時ぐらいかな、駅前に行くといつも溢れんばかりの人がいるのに、その時間に行くと全く人がいないことに気付いたんだ。水曜午後四時だけ。いや時間的にも人がたくさんいてもおかしくないのにね。だけど一人だけ、いつもそこにいる子がいる。
 猫目で、黒髪のショートヘアボブなんだけど、髪のセットに失敗したみたいな女の子。緑色のニットワンピースをいつも着てるんだ。ほら、あのアイドルグループの子に似てるよ。まあ出現条件諸々含め、確実に人間ではないんだけどね。だから面白いし、作品のネタになるかなって思って話しかけると、いつも、
「一緒に待ってほしいの」
 ってぼそっと言うの。それ以外言わないんだ。シャイだなあと思いながら、こっちから一方的に話して、作品のネタの整理したりして。気付けばそのまま午後八時とかになって、だけどまた水曜午後四時に行けば会えて。そんな虚無な待ち合わせに、僕は毎週付き合っていた。だから、つまり、作品も仕上げずに、ね。うん。
 こう話してると、この一割、僕のせいだな。十割悪かった。まあそんなわけで、なんでこの話を貴方にしたかって言うとですね。僕が死んだこととか、作品のこととか、全部その子に話して欲しいんだ。いや図々しいよね。ごめんって。
 一先ず僕は死にます。今まで楽しかったし、幸せだったよ。
 死後があれば、またよろしくね。

 

 

 

 


nina_three_word.

〈 こぼれ話 〉
〈 図々しい 〉