kurayami.

暗黒という闇の淵から

三題噺

どろどろ殺意

『あの、ホ別2ってなんですか?』 その子……前田一郎君と、知り合ったのはネットの掲示板だった。 やたら用語を聞いてくるから、私と同じ、大学生なんだろうと思っていたけど、まさか、高校生とは。 しかし、金はしっかり払うし、無理な行為を望むわけでもな…

耳たちの休日

神の気まぐれのような秋の空に、一本の飛行機雲が、黒い鉄格子の隙間から見えていた。 「実験がない日なんて、久しぶりですね」 目、手足のない少女……“目見えず”が、ルームメイトに話しかけた。「いつぶりだろうなあ。最近はお偉いさん方が焦っていたことも…

リピート

身体に篭った熱で、目が覚めた。近くには、ストーブがあって、篭った熱は、これのせいかとわかった。なんでこんな近くにあるんだろう、暑くてしょうがない。しかも、椅子に座って寝ていたせいか、背中が痛い。それに、なんだか、嫌な夢、気分の悪くなる夢を…

ハルシオン

「おはよう」 誰もいない台所に、私の声が響いた。机の上に、値引きされたあんぱんだけが置いてある。 返事を望んだわけでは、なかった。ただ一言「おはよう」と言えば、私は朝に生きていると実感できるだけ。「いただきます」 マグカップに牛乳を入れてあん…

その名が辿るもの

「あのね、しってる?」 「なになに」 「おおつき山のね、うら山にはね」 「うらやま?」 「おおつき山の、うらにある山のこと!」 「あー……しってる、しってる」 「そう、その山にね、入るとね、向こうにも、こことおなじ町があるんだって」 「ええ、どうい…

真っ赤な林檎

「あのね、りんごを見たの」 縁側から声がした。麦わら帽子を被り、水色のワンピースを身に纏った少女が、つま先を伸ばし、にこにことしている。「あらあ、ここら辺に林檎の成る木なんてあったかしら」 少女の祖母は、頬に手を当て考える。「本当に見たんだ…

悪しき実

前田一郎は残された側の人間だった。 二週間前。大川椿が自殺をした。 大学一年生と、四年生と先輩後輩の関係にあった前田と大川は、共依存関係にあって、恋人関係ではなかった。お互いその距離に、落ち着き、甘え、必要としあう巣に、居心地の良い時間を過…

色彩による乾き

八高線という、八王子と高崎を結ぶ路線がある。八王子市民から見ても滅多に使わない、それこそ路線沿いに住んでる人しか使わないような、ローカル路線。十二分に一度は電車が来る中央線への乗り換えができる駅の中で、三十分に一度しか来ないという、異質を…

輪廻転職

仕事に追われ、腕時計との睨めっこの日々。 その日も、いつものように、書類の山を片付け、終電に間に合わず、途方に暮れて、浅草の街を歩いていたとき、一匹の黒猫に出会った。 それが、人としての最後の記憶だ。 現世では、また年が明けたらしい。「うちの…

うつろ劇場

私の住んでる町は、古い再開発の計画によって、たくさんの廃墟が出来ていた。 再開発の話なんて、忘れられているんじゃないかって思うぐらい、町は放置され、住民はどんどん離れていく。 町は、時間が止まったみたいに、静かだ。 高校の授業を終えて、同級生…

肉の山

どさっと、また人間が落ちて、人間に重なる。 また、死んでいる人間。元から死んでいたのか、それとも落ちて死んだのかはわからなかった。少なくとも、不自然な方向に曲がっている身体は、俺に死の事実を主張している。 俺がここに落ちてから、数時間が経っ…

ウチノアリサ

「ねえ、暗闇ちゃん」「ん? どうしたの?」 暗闇の部屋の中。ベッドの上、暖かな声と、冷やりとした声が、二つ。“暗闇ちゃん”と呼ばれた、病的な白さに、真っ黒で長い髪、癖っ毛、セーラー服に黒いカーディガン、黒タイツと、萌え袖からつま先まで真っ黒。 …

ドーナツ神話

これは、僕が十代最後の旅をしていたときに経験した話だ。今思えば夢だったかもしれないけど、現実に旅には出てる。虚構と現実、半々ぐらいに、聞いてもらえればいい。 中国地方の旅を終えて、東に向かってるとき、京都五山送り火の日付が近いことを知ったん…

空虚な空間

男は寂しがり屋だった。 例えば、男がまだ小学生だったとき。遠足で行った広い草原でのことだ。昼食の時間になり、各々がレジャーシートを敷いて場所を取るとき、男は必ず、人に囲まれ、誰とでも話せる場所を選ぶ。席替えでは、周りに人がいないと落ち着かな…

窓際に見る希望

私がいつも、繰り返し、見ている夢。 夢の中の私は、私なのか、誰なのかわからない。男か、女かもわからない。手足の生えた、凹凸のない、人形のような身体。不恰好だけど、でも自身が誰であるだとか、男であるだとか女であるだとか、姿形、そんなアイデンテ…

掬い屋≪プロローグ≫

人々は犯した罪の数なんて、元々、覚えていなかった。 言われても思い出せないかもしれない。 見えても、思い出せないかもしれない。 一年も前のことだ。都心の夜空に紅いオーロラが現れ、人々は終焉を唱え始め、次第に終焉を待ち望むようになった。 揺れる…

植え付けるは拷問

暗い暗い、木々に囲まれた斜面を、全裸の男が転げ落ちる。肌寒さと、剥かれた皮膚の熱さが混ざっては、溶けて焦燥感は増していく。 漏れる息と、脈打つ心臓の音が、男に響く。 絶対に生きるという、人間としての強い意思を燃やして、男は下る。 男にとって、…

/九つ

「こんばんは、もういるのかな?」 「こんばんは。ここにいるよ」 「姿が見えないだけで、こんなにも不安になるんだね」 「私も、貴方が来てくれるか不安だったよ」 「僕が来ないわけないだろう。今日がその日なんだから」 「うん……ねえ、用意できた?」 「…

動かない時間

きゃんでい @can_candyただいまあ!2013/07/10 20:34 春香は睡眠中ぅ @harurukaんん、また延期になったんだあ…2013/07/10 20:34 きゃんでい @can_candyあーあ仕事長引いちゃったなあ2013/07/10 20:34 SARA @Amanesara@can_candy おかえりきゃん!201…

君を祝う三つの方法

日の暮れた、部活の帰り道。少年は突然の、肩のするどい痛みに叫んだ。振り返れば、そこにいるのは、同じ学校の制服を着た少女。満面の笑みを浮かべ、ナイフを片手に立っている。 肩に広がる、生暖かい感触。 ……切りつけられた。「ねえねえねえ、私のために…

あと数歩

一歩、一歩、と。冷たい深海を目指し、足を動かす。前方に広がる、奥底がない闇は、まるでこの世界と、あちらの世界の境目だ。夜の砂浜を波打つ音は、この暗闇の中、海の音とは思えない。まるで、人の咀嚼音のようだ。俺の行き着く先は地獄だろうか。ああ、…

迷子のジャック

日がいつもより早く暮れそうな、ある冬の日のことだった。 少年はいつものように、夕方のチャイムで解散して、友達と別れ、自らの町へと足を向ける。通学指定区域から外れて通っていた少年の帰り道はいつだって一人だ。心配性の親には、暗くなる前に帰るよう…

ハラカラ

僕には同じ腹から産まれた、三つ上の姉がいる。 姉はいつも優しく、知的だ。似たとこがあるとするなら、部屋の片付けができないことや、かたいラーメンが食べれない、あとは、全体的な顔のパーツなど。 姉の部屋は、親から譲ってもらった木造の家具と、たく…

惡の夢

仕方がないことだった。 僕は、今まで、誇れる仕事をしてきた。人を助け、人の生に希望を与え、人を幸せにしてきた。神様の言う通りに、良いことをしてきたんだ。 それが人間の世界にいる、僕の役目。 天使として生活をしつつ、人間としても生活をしないとい…

恋の行政革命

「告白をして、ふられてしまったんだ」 「こっぴどいふられ方だった、なんだっけ『お前みたいな変人とは付き合えないよ』なんて、言われたと思う。酷い話だよ、ねえ? そんなに否定しなくたっていいじゃない、ねえ」 「確かに私の好きなことは、他の人があま…

/堕

思い描いていた未来、なりたかった将来、この世界の平和そんな理想論は、なかったことにもできるし思い出せば、それはあったことにもできる あの頃の私はまだ思い描いたものも、なりたかったものも、平和も全て胸の内にあった私はなんにでもなれるし、今日は…

神の気まぐれ

「ねえねえ」 木造の椅子に縛られた、両腕のない男が、女に語りかける。女はそれを無視する。「お腹、空いたんだけど」「お前は、自分の立場をわかっているのか?」 女は我慢できずに、返事をしてしまった。 クーデターを組織していた男と、そのクーデターに…

敵に塩

「……蝋燭なんて、普段使わないから、いまいちわからないんだよなあ」 仄かに暗い埃っぽい廃墟、昼の白い光が差し込む部屋の、闇の方。数本の蝋燭に囲まれた中に、両腕を切断された男は、木造の椅子に座らされていた。 その対面にいるフードを被った女が、男…

マガイモノ

深い深い、山の闇夜の中。幼さがまだ残っている少女は、ぼんやりと紅く照らす鳥居の道を、心細く歩いている。 一つ下の弟、太郎が消えて三日目の夜。少女は我慢できなくなり、飛び出した。帰らない太郎に、心当たりがあったのだ。町の西にある山の裏側、そこ…

しゃぼん玉

叶わない理想ばかり、考える毎日。 私が買われてから、何ヶ月が経ったんだろう。この部屋には、窓しかないし、その窓からも見えるのは森だけだった。とっても寒いから、冬だとは思うけど、それにしてはやけに静か。十一月、十二月というのは、もっと騒がしい…