kurayami.

暗黒という闇の淵から

冷たく白糸を解かれて

 藍色が色濃く、深く染まる黒髪の夜十一時過ぎ。
 冬の冷たさが終わるべきモノたちを、凍らす前に。
 高層マンションの屋上から、少女が眠る街を見下ろしていた。白く揺らぐ子の朧な光。無人の道を濡らす街頭。夜に襲われて拭えない一室の明かり。街は鼓動するように点々と眩いまま、陽がないことを良いことに眠り続けている。しかし、ファーコートに身を包み眼下を見下ろす少女は、そこへ広がる〈生〉に意識を奪われていなかった。
 フェンスを抜ける白い風はコートの裾を荒々しく揺らす。冷たさ、痛さ。内に篭った熱なんて些細な頼りで、この気温下では寒さだけが絶対的だ。風は止むことを知らず、過ぎ去る時と同じ。少女が屋上に立っているこの一瞬も十代という一瞬も、先に後悔を笑うその一瞬、終わりばかりを考える単純思考の一瞬も。白い風と同じだ。
 時は一瞬で帰らず。過ち。
 諦めることを知らないのは愚か。少女はコートのポケットに入っている無機質な携帯を握って、強くそう思った。叶うと信じている、叶わないと気付かないフリをしているモノたちは、一方通行の呪いにかかっている。もちろん少女の思うソレは過程を見れば正解ではない。少女のソレは結果を見れば正解である。ただ、少なくとも、少女の目に映る街に白んだ夜空には、終わりだけが描かれていた。深く冷たい夜空は、海よりも優しい、暗闇。
 沈みかけてる星空と月に少女は惚けて目を奪われて、優しい気持ちへ誘われる。頑張ることが可哀想だと眼下に同情をし、どうか諦めますようにと目を細め、願った。白い風に身を預けた少女は精神を頭上の宇宙へと投げて、終わるべきモノたちの正しい結末を祈る。粕より軽い浮ついた言葉よりも、手の届く範囲での思考を。微睡んだ後悔をし、己が何者かと知り他人を呪うような時間が、細い少女の視野だけに見えている。夜の街。一歩前へと出て、フェンスを小さな手で掴んだ。柔い五本の指が交差する鉄線によって見えないまま傷つく。
 現状と世界はいつだって人を追い詰めている。手を悴ませた少女は信じてやまない。抗っても無駄。始まりはいつしか終えてしまう、それも残酷に。夢は夢だから夢で、悲劇なほど可愛がられるモノ。だからこそ、だから、こそ。希望を手放し諦めてしまうことは正しいと、眼下の眩い街へ視線を落とし、そして、履き慣れた自身のスニーカーのつま先が少女の目に入ってしまった。
 気付き。
 宇宙より落下する精神は事実を認識する。街への願いは、少女自身の望み。何もかも終わらせたいと、諦めたいと苦悩する身を屋上へ運んだ、街を見下ろす神モドキに過ぎない。しかし真実は、白い風の中で身動きを取ることが出来ない、痛み続ける苺なのだから。
 腐る頃には、食べる頃には、いとしい冬は終わる。
 哀しくも新たな始まりが芽吹く、季節へ。